発行日 :平成13年 7月
発行NO:No7
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【3】記事のコーナー〜商標の金銭的請求権について〜
(1)趣 旨

平成11年改正前の商標法では、商標権の設定登録前に第三者が出願商標を使用し、それによって出願人が業務上の損失を被った場合でも、出願人に対し、その損失を補填するための保護は与えられていませんでした。  
しかし、近年、商品・サービスのライフサイクルが短くなる傾向にあり、商標権の設定登録前に第三者が出願商標を模倣使用することにより、出願人が業務上の損失を被るケースが増大してきました。  
そこで、平成11年改正法では、商標登録出願から商標権の設定登録の間における当該商標に化体した業務上の信用を保護することを目的として、当該商標を第三者が指定商品又は指定役務について使用することにより生ずる出願人の業務上の損失を補填するため、その使用をした者に対して金銭の支払いを請求できるとする金銭的請求権が別途記載のように創設されました(商標法13条の2)。

(2)金銭的請求権の内容

第1項では、金銭的請求権の内容について規定されています。すなわち、金銭的請求権とは、商標登録出願人が出願内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、出願商標を指定商品または役務について警告後設定登録前に使用した者に対し、当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払いを請求できるとするものです。  
ここで、警告が金銭的請求権の発生の要件とされているのは、第三者に突然の金銭的請求という不意打ちを与えないためであり、また、本条により請求できる額は業務上の損失相当額であるところ、金銭的請求権は、損失が発生していることを出願人(請求人)が認識した上で請求するものであるからです。  
したがって、たとえ相手方が悪意で使用していても警告は必要であり、また、たとえ警告をしていても損失が発生していなければ、金銭的請求権は発生しません。逆に、商標登録出願に係る商標とは知らずに善意で使用している場合であっても、警告があった後は、その使用を継続することによって出願人に業務上の損失を与えたときは、その損失に相当する額の金銭を支払わねばならないことになります。  
このことは、商標が商標登録出願されたという事実、あるいは商標法12条の2の規定に基づき公開公報に掲載されたという事実だけでは、当該商標の使用に係る第三者がその商標登録出願に係る商標であることを知っていたものとは推定されないということを意味します。したがって、商標登録出願人は、金銭の支払いを請求するためには、当該商標の使用に係る第三者に対し、商標登録出願に係る内容を記載した書面を提示して警告しておく必要があります。  
なお、商標法の金銭的請求権は、特許法で従来より認められている補償金請求権(特許法65条)と似ている部分もありますが、以下の点で相違します。
(1) 特許法の補償金請求権では、請求できるのは実施料相当額であるのに対し、商標法の金銭的請求権で請求できるのは、当該商標の使用により生じた業務上の損失に相当する額である点。
(2) 特許法の補償金請求権では、出願公開(特許法64条)が時期的な要件とされているのに対し、商標法の金銭的請求権は、出願公開(商標法12条の2)前でも、当該商標出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、請求権が発生する場合がある点。
(3) 特許法の補償金請求権では、出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って特許権の設定登録前に業としてその発明を実施した者に対しては、警告をしなくても請求権が発生する場合がある(特許法65条1項後段)のに対し、商標法の金銭的請求権は、たとえ相手方が悪意で使用していても警告が必要である点。
 
 
第2項では、金銭的請求権を行使できる時期について、商標権の設定の登録後でなければ行使できないと規定されています。すなわち、出願された商標の全てが登録されるものではないことから、そのような段階で金銭的請求権の行使を認めると、後に拒絶された場合の利害関係の調整が困難な場合があるので、金銭的請求権は、審査が終了して商標権の設定の登録が行われた後に行使を認めることとされています。  
 
第3項では、金銭的請求権の行使は商標権の行使を妨げないと規定されています。金銭的請求権は、出願から商標権の設定の登録までの間における第三者による使用に対して生じるものであり、本請求権に基づく金銭の支払いにより、商標権の設定登録後の使用が適法なものとなることはありません。  
 
また、第4項では、金銭的請求権は、その商標登録出願が放棄、取り下げ、却下されたとき、拒絶査定若しくは拒絶をすべき旨の審決が確定したとき、又は異議申立における取消決定や無効蕃決が確定したときは、初めから存在しなかったものとみなされる旨が規定されています。  
 
第5項では、保護の対象となる商標及び指定商品の範囲(商標法27条)、侵害とみなす行為(商標法37条)、書類の提出(特許法105条)、裁判所からの鑑定の嘱託(特許法105条の2)、信用回復の措置(特許法106条)の規定が準用されています。なお、商標法37条が準用されているので、金銭的請求権は、第三者が出願に係る商標をその指定商品・役務と同一の商品・役務に使用した場合に適用されるのは勿論、出願に係る指定商品・役務や商標についての類似の範囲を使用等した場合についても適用があることになります。  
また、商標登録出願中の第三者の使用行為は、不法行為に近いものであるので、共同不法行為者の責任(民法719条)、損害賠償請求権の消滅時効(民法724条)の規定が準用されています。ただし、民法724条では、不法行為による損害賠償の請求権は損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは時効により消滅すべき旨が規定されていますが、商標法において本規定をそのまま準用すると、金銭的請求権は商標権の設定の登録があった後でなければ行使できないこと(商標法13条の2第2項)から、商標権が設定登録されて、いざ金銭的請求権を行使しようとしたときは、その請求権は時効によって消滅していたということになりかねないので、金銭的請求権を有する者が商標権の設定の登録前に当該商標登録出願に係る商標の使用の事実及びその使用をした者を知ったときは、その消滅時効の起算点を商標権の設定の登録の日とするように読み替えする規定が設けられています。  

以  上

(H13.7作成: 特許商標部 山本 進)


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