発行日 :平成15年 7月
発行NO:No11
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【3】記事のコーナー
    〜不正競争防止法による差止請求権等の行使の制限について〜
−不正競争防止法12条の適用除外の規定と商標権の効力の制限との相違−
商標権の効力(商25条、商37条1号)は、先使用による商標の使用をする権利(商32条1項)を有する者による使用や、商標権の効力が及ばない範囲での使用(商26条1項各号)に対しては、制限される場合がありますが、不正競争防止法(以下、不競法といいます)においても、例えば、形式的には「周知表示混同惹起行為」(不競法2条1項1号)等に該当する行為であっても、一定要件の下で差止請求権等の行使が制限される適用除外の規定(不競法12条1項各号)が置かれています。  しかしながら、不競法の適用除外の規定の要件は、商標法とはいくつかの点で相違します。詳細は、両方の条文を見比べると分かりますが、注意すべきと思われる以下の3点について説明致します。

(1)普通名称等について

商標法では、普通名称、慣用商標のほか、当該指定商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途等を普通に用いられる方法で表示する商標についても、商標権の効力は及ばない旨が規定されています(商標法26条1項2号乃至4号)。
これに対して、不競法では、「商品若しくは営業の普通名称」と「同一若しくは類似の商品若しくは営業について慣用されている商品等表示」のみが規定されています(不競法12条1項1号)。
但し、不競法においても、「商品等表示」は、自他商品識別機能又は出所表示機能を備えていることが必要とされていますので(山本庸幸著「要説 新不正競争防止法」初版、第44頁参照)、侵害被疑者の使用する表示が、その商品の品質等を表示したものに過ぎないと考えられるようなケースにおいては、侵害被疑者としては、自己の使用する表示は、そもそも「商品等表示」に該当しないと主張して侵害の成立を否認することは、可能と考えられます。

(2)法人の名称について

商標法では、「自己の氏名若しくは名称」と規定されているため(商標法26条1項1号)、自然人の氏名だけでなく、法人が自己の商号を普通に用いられる方法で表示する場合にも、商標権の効力が制限されるのに対し、不競法では、「自己の氏名」と規定されているため(不競法12条1項2号)、自然人の氏名のみが適用除外の対象とされています。
これは、不競法の保護対象である「商品等表示」は、「商品又は営業を表示するもの」であって、「商号」も含むものであり(不競法2条1項1号)、侵害者に対する差止請求の具体的内容として、商号自体の抹消登記請求も可能とされていること(大阪地判、平2.3.29、判時1353号111頁、「ゲラン事件」等を参照)から、不競法においては、法人の名称は、適用除外の対象とされていないものと考えられます。
なお、判例としても、個人の姓を会社の商号として使用した場合であっても適用除外を認めなかった事例(静岡地浜松支判、昭29.9.16、判時38号15頁、「山葉楽器事件」)があります。

(3)先使用の要件について

商標法では、「他人の商標登録出願前」から先使用者が使用していること(商標法32条1項)が要件とされているのに対し、不競法では、「他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前」又は「他人の商品等表示が著名になる前」から先使用者が使用していること(不競法12条1項3号乃至4号)が要件とされています。よって、不競法において、適用除外を検討する際には、先使用者が使用を開始した時点と、周知商品等表示の保有者が使用を開始した時点の先後は、問題とならない点に注意が必要です。
また、商標法では、その他人の商標登録出願の時点において、先使用者の使用する商標が、需要者の間に広く認識されていること(商標法32条1項)が要件とされていますが、不競法では、先使用者の使用する商品等表示が周知であることは、要件とされていません(不競法12条1項3号乃至4号)。
これらの相違があるのは、原則として出願をすることによって保護が受けられる法制をとっている商標法では、出願をして商標権を取得した者の期待を制限してまで先使用者の方を保護するのであれば、先使用者の側にも一定のレベル以上の保護要件(周知性)が必要と考えられているのに対し、周知・著名となればその時点から保護が受けられるものの、保護を受け得ることになった商品等表示を公示する手段がない不競法では、少なくとも、他人の商品等表示が周知・著名となる以前から使用している者は、それが通常のレベルの使用であっても、先使用者としての保護要件としては十分と考えられていることによるものと思われます。
なお、商標法では、先使用者が、その商標を「不正競争の目的でなく」使用していること(商32条1項)が要件とされている点、不競法においても、先使用者が、その商品等表示を「不正の目的でなく」使用していること(不競法12条1項3号乃至4号)が要件とされている点には、注意が必要です。

以 上

(H15.7作成 : 特許商標部 山本 進)


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