発行日 :平成16年 1月
発行NO:No12
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】記事のコーナー〜特許の異議申立制度と無効審判制度の統合について〜
平成15年法改正により、特許法の異議申立制度に関する規定が削除されるとともに、公益的無効理由に基づく無効審判の請求人適格が拡大され、従来、異議申立制度が担っていた機能が無効審判制度に包摂されることになりました。新しい無効審判制度は、以下のような内容の制度となります
(下線部が今回の改正点)。

請求人適格 何人も可能(但し、権利帰属関係の無効理由については、利害関係を要求)
請求時期 いつでも可能
請求理由 公益的理由+権利帰属等
審理構造 特許権者と無効審判請求人の当事者対立構造 職権探知主義
審決取消訴訟 審判の両当事者が原告・被告となる当事者対立構造

平成15年法改正前は、明文の規定はなかったものの、審判の準司法的性格から、民事訴訟法の「利害なければ訴権なし」の原則が適用され、無効審判の請求には利害関係が必要とされていました。それが、今回の改正により、利害関係が必要な無効理由は、共同出願要件違反(特38条、特123条第1項第2号)と、冒認出願(特123条第1項第6号)のみとなりました(特123条第2項)。
今回の改正は、無効審判制度の側からは、一部の無効理由を除き、請求人適格が拡大されたものと見ることができます。しかし、従来、異議申立制度を積極的に活用していた企業等から見た場合、以下のような注意点があるものと考えます。

(1)請求の理由の要旨を変更する補正について

従来、異議申立制度の下では、申立理由および必要な証拠の補正は、異議申立期間内であれば、要旨変更となる場合であっても認められていました。しかし、無効審判に統合された新しい制度の下では、要旨変更となる補正は、原則として認められなくなります(特131条の2第1項本文)。  但し、平成15年法改正により、無効審判の請求の理由の要旨変更補正を例外的に認容する旨の規定(特131条の2第1項但書、同条第2項〜第4項)が設けられました。この例外規定が適用されるための要件は以下の通りです。

(a) 当該補正が審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかであること(特131条の2第2項本文)主張の基礎となる証拠の価値が低く、適切な無効理由を構成しないことが一見して明らかな場合などは、要旨変更補正は認められないと考えられます。
(b) 「当該補正に係る請求の理由を審判請求時の請求書に記載しなかったことにつき合理的な理由があること」及び「被請求人が当該補正に同意したこと」(特131条の2第2項第2号)  無効理由の根拠となる証拠が極めて特殊な外国文献等であるため、審判請求以前から努力していても、その入手に相当の時間を要し、提出が遅れたとしてもやむを得ないと認められる場合などは、合理的な理由があるものと考えられます。
被請求人が要旨変更補正に安易に同意することは考え難いですが、追加で提出される証拠が強力なものであれば、結局のところ、別途無効審判が請求されることが予測されます。従って、被請求人は、当該事件での一回的解決を図るか、別途無効審判の提起を待つかの判断を行うことになります。  なお、無効審判において訂正請求がなされ、かつ、その訂正請求により請求の理由を補正する必要が生じたときは、被請求人の同意がなくても補正が許可されることになります(特131条の2第2項第1号)。
これは、訂正請求によって特許請求の範囲に変更があれば、それに応じて新たに無効理由の追加を認容するのは原則として合理的であり、また、特許権者自身による訂正請求に起因して無効理由の追加がもたらされる以上、特許権者の同意があったものと擬制することが可能であると考えられたためです。

(2)一事不再理効について

従来、異議申立に対して維持決定がなされても、その後に同一の事実及び同一の証拠に基づいて再度無効審判を請求することについて、一事不再理効が働くことはありませんでした。  しかし、無効審判に統合された新しい制度の下では、請求棄却審決の確定の登録があったときは、何人も、同一の事実及び同一の証拠に基づいて再度無効審判請求をすることはできなくなる点(特167条)に注意が必要となります。

(3)請求期間について

従来は、特許公報掲載の日から6月の法定期間を経過すれば、料金的にも高い無効審判をするしか手段がなくなるため、取消の成否は微妙と考えられるケースにおいても、取り敢えず異議申立はしておこうという方向にインセンティブが働く場合があったと考えられます。
無効審判に統合された新しい制度の下では、請求時期についての法定期日はありませんが、期日のないことが遅れをとってしまう原因になることが懸念されるようであれば、いつまでに意思決定をするかについて社内規定を設けるようなことが必要になると考えられます。

(4)当事者対立構造について

従来、異議申立制度のもとにおいては、異議申立人は事件の当事者とはならず、異議申立をした後は、特許権者と特許庁の間で審理が進められていました。  しかし、無効審判に統合された新しい制度の下では、審判請求人は事件の当事者となり、審判の審理は当事者対立構造で進められます。また、例えば請求人が個人である場合においてその個人が死亡したときは、請求人の地位は相続人に承継することが可能となる点や、審決取消訴訟となった場合には、審判における両当事者が原告・被告となる点(特179条但書)などにも注意が必要となります。

以上
(H16.1作成: 弁理士 山本 進)


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