発行日 :平成19年 7月
発行NO:No19
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜ウェブサイトを介した著作権侵害の準拠法〜
1 問題の所在

  最近、ウェブサイトを介したコンテンツの流通が盛んになっており、インターネット上に存在する電子商店が国境を越えて著作物を提供することも行われるようになっている。このような国際的な著作物の取引においては、提供者、利用者、権利者の住所や国籍、コンテンツの提供場所などが複数の国に関連するため、これら関係する各国の法律のうち、どの国の法律がその準拠法として適用されるべきであるのかが問題となる。

  例えば、A国のサーバで音楽のダウンロードサービスをしている日本の電子商店Xが、B国在住の外国人Yの音楽著作物を無断でアップロードし、C国からアクセスした利用者に提供した場合に、その著作物を無断でアップロードした電子商店Xの営業所所在地が日本であったとしても、著作物が閲覧可能な状態に置かれたサーバの所在地がA国で、被害者である著作者Yの住所がB国であり、その音楽著作物を受信して利用したのがC国であるので、日本、A国、B国、C国の法律のうち、どの国の法律が適用されて解決されるべきかという問題である。

2 著作権侵害の準拠法

   わが国において、準拠法の決定は、これまで法例(明治31年法律第10号)によってなされていたが、平成19年1月1日からは、これを全面改正した法の適用に関する通則法(平成18年6月21日法律第78号)によって規律されている。そして、著作権侵害については、著作権法によって差止請求権が認められているほか、損害賠償については、一般的な権利侵害でも問題となる不法行為による請求とされているので、法の適用に関する通則法17条に「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。」と規定されているのに従い、加害行為の結果発生地の法律が準拠法となる。しかし、他方では法律より優先する法規範で、日本も締結・批准している「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約」(以下、改正ベルヌ条約という。)が、その5条2項で「(著作者)の権利の享有及び行使には、いかなる方式の履行をも要しない。その享有及び行使は、著作物の本国における保護の存在にかかわらない。したがつて、保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」と規定しているので、これらの規定をどのように整合させて解釈すべきであるのか、特に改正ベルヌ条約の規定が著作権侵害の損害賠償について準拠法を定めたものであるかを、先ず、検討する必要がある。

3 改正ベルヌ条約の解釈

  改正ベルヌ条約5条2項が「保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」と規定している意味については、次の3説がある。

@法廷地実質法説・・・裁判が行なわれる法廷地の著作権法が適用される
A法廷地国際私法説・・・裁判が行なわれる法廷地の国際私法が適用される
B保護国法説・・・準拠法として保護国法、すなわち利用行為地法が適用される

  これらのうち法廷地実質法説に対しては、準拠法を定め、どこでも同じ実質法を適用することにより国際的な私法秩序を維持するという国際私法の目的を没却してしまうとの理論的な批判とともに、法廷地あさりの弊害があると指摘されている。これに対して、法廷地国際私法説は、このような批判を受けることはないものの、改正ベルヌ条約がなくても法廷地の国際私法が適用されることになるのに、わざわざ条約で規定する意味がないと批判されている。この見解を採用すれば、日本で訴訟が提起された場合は、法の適用に関する通則法17条に規定する不法行為の準拠法の基準となる「加害行為の結果発生地」をどこと認定するかによって、準拠法が決まります。また、保護国法説に対しては、保護国の確定が問題となり、インターネットを通じた著作権侵害については世界中が保護国になって、紛争の統一的な解決が困難であるとの批判があるが、条文上素直な解釈であって、国際的にも広く受け入れられている見解とされている(道垣内正人「国境を越えた知的財産権の保護をめぐる諸問題」ジュリスト1227号56頁)。

4 例示の場合に適用される準拠法

  上記例示の場合にどの国の著作権法が適用されるのかは、提訴された国と上記各説のいずれを採用するのかで異なる。
  法廷地実質法説では、それぞれ提訴された国の著作権法が適用される。
  法廷地国際私法説では、それぞれ提訴された国の国際私法により準拠法が決まるが、日本で提訴された場合は、上述した法の適用に関する通則法17条に規定により、「加害行為の結果発生地」の著作権法となります。この「加害行為の結果発生地」の解釈については、サーバーにコンテンツをアップロードして送信可能化としたによりサーバー所在地で結果が発生したと見るか、利用者がダウンロードして利用した利用者の住所地で結果が発生したと見るかの両説が想定されるが、前者とすれば、送信可能としたサーバの所在地であるA国法が適用され、後者とすれば、ダウンロードされた端末の所在地であるC国法が適用されることになる。
  また、保護国法説では、A国での送信可能化権侵害を根拠とすれば、A国法が適用されることになり、C国でのダウンロードによる無断複製を根拠とすれば、C国法が適用されることになる。


(H19.8作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


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