発行日 :平成19年 7月
発行NO:No19
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜過払金返還(グレーゾーンと利息制限法)〜
1 過払金返還(グレーゾーンと利息制限法)

  最近、マスコミなどで、多重債務者問題に関連して過払金返還(「過払い金返還」、「不当利得返還」ともいう。)が大きな話題となっている。ここで言う「過払金」を定義すると、

@貸金業者が行う
A出資法所定利率未満、利息制限法所定の利率を超える金銭消費貸借契約について
B貸金業法所定の要件を充たさないものについて発生する
C借主が、貸金業者に請求することができる金員
である。

  そして、上記@〜Cについて、それぞれ説明すると、次のとおりである。

@ サラ金、クレジット会社等の業者が相手方になる。個人であっても、継続して貸金業を営めば足りるし、特に「貸金業の規制等に関する法律」(貸金業法)貸金業の登録を受けている者は、「貸金業者」として扱われるから、「過払金返還」請求する際に問題となることはない。

A いわゆる「グレーゾーン」の問題である。従来、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」(出資法)所定の年利29.2%未満(改正前は、約40%。これを超えると刑事罰の制裁があるので、この範囲内で貸付を行う業者が大部分である。)で、利息制限法(年利15〜20%。元本によって異なる。)を超える金利で取引がされているものが極めて多い。この利息制限法を超え、出資法未満の「金利の幅」を一般に「グレーゾーン」と呼ぶ。

B Aの「グレーゾーン」金利を受領することができるには、貸金業法43条所定の「みなし弁済規定」に基づく要件を満たすことが必要とされるが、この「みなし弁済規定」については、多くの要件があるうえに、厳格に解釈することが要請されているため、殆どの貸金業者は、この要件を充たさないまま、「グレーゾーン」の金利を徴収している。

C Bの貸金業法の要件を充たさない「グレーゾーン」の金利について、借り主は、貸金業者の請求するまま借金の返済を続けている現状がある。例えば、契約の金利が「年利26%」の場合、法定金利が15%とすると、11%分の金利は、法律上支払う義務がなく、一回あたりの返済について、11%分多く払いすぎているということになり、元本が100万円で、1年では115万円のはずが、1年で126万円払っていることになるから、単純に計算すると、この場合、11万円が「過払金返還」の対象となるということになる。
  しかし、「過払金返還」を実現するには、借り主本人が、業者に言っても、応じてくれない場合も多く、また、「過払金返還」を請求するには、取引当初からの出金、入金の取引履歴を入手して計算する必要があり、これ自体拒まれることも多い(ちなみに、貸金業者によるこのような取引履歴の開示拒否は、判例により、損害賠償が発生する場合があるとされている)。そのため、弁護士に依頼することにより「過払金返還」の請求を行うことが必要となっているのである。

2 任意整理と過払金返還

  「任意整理」とは、弁護士等が、裁判所を使わずにして、この「グレーゾーン金利」を利息制限法所定の「法定利息」に引き直し計算して、借金を整理する方法である。裁判所を使う「個人再生」と同じく、減額を求めるものの「借金を支払う」というものであり、同じく裁判所を使うが、最終的には「免責」を得ることにより、借金を帳消し・チャラにする「破産」とは異なる。
  弁護士による「任意整理」のメリットは、「過払金返還」の際に威力を発揮する。弁護士以外の「司法書士」「行政書士」による「任意整理」も見受けられるが、これらの者による「過払金返還」は、せいぜい「交渉」に留まることが大きなデメリットである。特に「行政書士」は、本来の業務範囲外であり、代理人として活動することができないので、そもそも依頼自体を控えるべきで注意が必要である。「交渉」による「過払金返還」では、業者の担当者から、減額、しかも過払金元本の減額を求められることが多く、訴訟を前提にしない交渉では、不本意な和解をせざるを得ない場合もないことはない。過払金返還は、これを元本とする「利息」も取れるのであるが、交渉段階で業者が、「利息」も含めて素直に返還するのは皆無に等しいのである。

  しかし、弁護士によれば、「訴訟」を前提にしており、「交渉」の段階でも大幅な譲歩を求められることはなく、そして、金額に関わらず「訴訟」に速やかに移行し、「執行」も視野に入れることができる。
  また、「司法書士」による「訴訟」は、簡易裁判所による代理しか認められておらず、過払金が、簡裁の管轄である「140万円」を超えた場合には、「訴訟」をする為に、別に「弁護士」を依頼する必要がある(しかも、控訴されれば、「140万円」を超えない場合でも「弁護士」が必要となる。)。
  なお、法テラス(日本司法支援センター)による代理援助の場合、訴訟をしても、さほど弁護士費用は変わらない基準になっており、「過払金返還」についての「訴訟」のハードルは、従前と比べて大幅に低くなったといえる(この点に関連して下記の札幌高裁は、弁護士費用の損害賠償を認めている。)。
  いずれにしても、速やかな「過払金返還」のためには、訴訟も踏まえて、最も適切に処理する権限を有した弁護士に依頼することが近道である。

3 破産と過払金返還
(特に、破産裁判所における「過払金の取扱い」運用について)

  @「同時廃止」事件の場合
同時廃止とは、破産開始決定と同時に手続きが終了し、破産管財人が選任されずに処理される場合である。管財人がつけば、最低20万円を別途裁判所に「予納金」として納めなければならないので、債務者において費用的にメリットのある手続である。この場合の「過払金の取扱い」運用については、次のとおりとなっている。

    ・どのような場合に過払金調査を要するか
平成19年申立の場合には、平成11年借入からの調査が要求されている。
つまり、裁判所は、「8年間」ぐらいの取引期間であれば、「過払」となっている可能性がある事案と認めて運用されているということになる。「任意整理」をする際にもおおよその基準として利用できるものであろう。

    ・どのような場合に過払金の回収を要するか
  従来、古くからの取引であっても、破産手続上は、過払金を考慮されることなく、業者が破産における債権調査票に記載した債権額(グレーゾーン金利により計算された残額)がそのまま破産における債権額となっていた。この運用基準を改め、引き直し計算後残高が、
T 30万円未満の場合→原則として回収は不要。
U 30万円以上の場合→このままでは、同時廃止はできない。
               申立代理人による回収が必要。
となった。Tの場合、回収せずに免責を得たとすれば、その後、債務者が独自財産として回収できるということになろう。

    ・どのような場合にあん分弁済を要し、又はあん分弁済が可能か
「あん分弁済」とは、同時廃止手続を維持したまま、管財手続に移行することなく、裁判所の指示により、残った財産を、申立代理人において債権額に応じて債権者に平等に返済するというものである。従来、生命保険金や退職金が問題となることが多かったが、過払金も返還を受けられる財産であるから、同様に問題となる。「管財事件」に移行すると、予納金が増大し(同時廃止事件であれば、せいぜい2万円以下である。)、管財人が就任することで、書類の提出・財産、負債についての説明等に多大な負担が生ずるので、「あん分弁済」をすることで、管財事件移行を回避でき、または、「免責」も得られ易いというメリットが債務者にある。

    T 20万円未満の場合→原則として、「あん分弁済」は不要
    U 20万円以上100万円未満の場合→原則として「あん分弁済」が可能
    V 100万円以上の場合→原則として「あん分弁済」は不可能
                (管財事件に移行する。)

  つまり、「過払金」が、20万未満の場合には、事前に回収も不要であるし、「あん分弁済」もする必要がないので、債務者の手元に残るということになる(回収費用、弁護士費用等は除く)。
Uの場合に、「あん分弁済」をすることで、管財事件を回避するかという判断が必要になる。管財事件になれば、自由財産拡張の申立を行って、回収した過払金を債務者の当面の生活の立て直しに使うことができるので、金額だけを考えれば、通常であれば、この場合には管財事件に移行した方がメリットになる。
Vの場合には、管財事件に移行するということになるが、予納金も、「過払金」の中から支出できるので、金銭的に新たな負担が生ずるというものではない。

A管財事件〜新しい自由財産拡張基準
 管財事件に移行した場合でも、全ての財産を拠出しなければならないものではない。大雑把であるが、99万円以下であれば、自由財産拡張申立をすることにより、最終的に、債務者の手元に残すことができる。
 この自由財産拡張については、申立代理人において慎重な対応が必要となる。自由財産拡張が認められるためには、次の要件を充たす必要がある。

T 破産申立てまでに、過払金の返還額及び返還時期についての合意ができているか、又は、既に過払金を回収済みであること。
U 申立時に提出する財産目録にその旨が記載されていること。
V 拡張対象となる財産の評価額が合計99万円を越えないこと。
である。

 結局、30万円以上は、回収しなければ同時廃止とならないし、20万円以上100万円未満でも、「あん分弁済」するのであれば、回収が必要となる。重要な点は、過払金が100万円以上あると見込まれる場合、回収しないまま申立をすると、管財事件に移行した段階で、自由財産拡張対象とならない、つまり、手元に残るはずであったものが、残らないということになり、注意が必要である。

4 過払金返還に関する判例

  最近の判例として、以下の判例が注目される。そのうち、BCEが重要である。Cについては、これで、ほぼ「みなし弁済規定」の主張はできなくなったと評価できる。 ちなみに、Eに対しては、社団法人神奈川県貸金業協会理事会から、札幌高等裁判所に対して「意見書」が提出されている。

@ 制限超過利息を任意に支払ったときは、その利息は残存している元本に充当する(最判昭和39年11月18日民集18巻9号1868頁)
A 過払いになった金銭(過払金)を不当利得(民法703条)として返還請求できる(最判昭和43年11月13日民集22巻12号2526頁)。
B 貸金業者は、保有している業務帳簿(保存期間を経過して保存しているものを含む。)に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う(最高裁判所第3小法廷平成17年7月19日判決民集第59巻6号1783頁)
C 期限の利益喪失特約がある場合には、原則として支払の任意性がない(最判平成18年1月13日判時1926号17頁)。
D 商行為である貸付けに対する弁済金のうち利息制限法の制限超過利息を元本に充当することにより生ずる過払金を返還する場合に,悪意の受益者が付すべき民法704条前段の利息の利率は,民法所定の年5分である (札幌高裁平成18年(ネ)第303号 平成19年4月26日判決・兵庫弁護士会ホームページ
F 貸金業者が利息制限法の制限超過利息を受領したがその受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合、特段の事情が認められない限り民法704条の「悪意の受益者」であることが推定される (最高裁判所第三小法廷平成18(受)1666、平成19年07月17日判決等・最高裁ホームページ

5 新たな問題点

    消費者金融専業者を主な会員とする「全国信用情報センター連合会(全情連)」によれば、   「過払返還請求についても、契約上の債務に関する整理行為を取ったという事実の発生に基づいて、債務整理という情報項目で登録されます。」 とされている。これは、過払返還請求については、正当な権利行使であるにもかかわらず、借金返済ができずにされる「任意整理」と区別されることなく、いわゆるブラックリストとなる「債務整理」という項目で登録されることになる。  そして、「任意整理」の情報は、大手カード会社も加入する「テラネット」と 交流される情報とされる ことになるから、「過払金返還」請求をすることで、事故扱いとなる。
 現状では、「過払金返還」をすることで、新たにクレジットカードが作れなくなったり、融資が断られたりする影響があることになる。


(H19.8作成: 弁護士・弁理士 岩原 義則)


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