発行日 :平成20年 7月
発行NO:No21
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜テレビ番組の一括録画配信装置と著作権侵害差止等請求事件〜
  ―「まねきTV」事件東京地裁判決―
1. 本件判決の意義
  インターネット回線を利用してテレビ番組を視聴可能とするサービス「まねきTV」に関する判決が出された(東京地裁平成20年6月20日判決平成19年(ワ)第5765号著作権侵害差止等請求事件)。先の知財高裁仮処分抗告審の本案事件に該当するものである。
  結論的には,先の知財高裁と同様の論理により,放送業者の請求を全て棄却しており,先の知財高裁の結論に沿ったものといえる。
  著作権侵害に関する判断についての争点はあまり変わらないが,知財高裁の結論をも踏まえ双方の主張もより洗練され,判決自体も実態を重視した分かりやすいものとなっている。
  本裁判の争点は,
  @本件サービスにおいて,本件放送行為の送信可能化行為が行われているか
  A本件サービスにおいて,本件著作物の公衆送信行為が行われているか である。
2. 本件判決の特徴
  本判決は,争点や論理展開,事実認定,結論等,ほぼ先の知財高裁抗告審と同様であり,その点については余り目新しいものはないが,特徴として敢えて挙げることができるとすれば,本件サービス提供者である被告が,従来主張していたものを真正面に捉えたものと考えることができる。
  つまり,まず,ベースステーション自体は,ソニーが開発・製造した機器であり,ロケーションフリーの構成機器であることから,仮に,ベースステーションが,「自動公衆送信装置」に該当するといえるのであれば,ソニー自体が,著作権法違反を犯しているということになりかねない重要な問題を含むものであった。
  また,ソニー自体も,設定等の有料サービスを行っており,この点の被告との違いについて,当然考慮されなければならない問題であった。
  本判決は,これらの点を真正面から捉えたものと判断できる。判示中にも,
「『ロケーションフリー』の利用行為一般が著作隣接権や著作権の侵害に当たるとの主張,立証はない。」
「いわゆるハウジングサービス一般が著作権法に違反するとの主張,立証はない。」
「メーカーの設定する設定サービス等が著作権法に違反するとの主張,立証はない。」 とされ,放送業者が敢えて避けていると思われる争点をもって,放送業者に不利に判断しているといえる。
3. 本判決が認定した被告のサービス提供行為における役割
  その上で,本判決は,被告のサービス提供行為における役割について,次のとおり認めている。
「@ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと,Aベースステーションを被告の事業所に設置保管して,放送を受信することができるようにすること」  
 これらを前提として,本件判決は,本件サービスを利用しなくとも,ベースステーションのNetAV機能を用いることができること,設定についてもソニーの設定サービスを用いることも,利用者自らがすることもできる等と判示し,また,各ベースステーションの所有権も各利用者に存し,各利用者と被告との法律関係は寄託であるとも明示した。
 ここでもロケーションフリー自体の適法性,メーカーであるソニー自体が行う設定行為等についての違法適法性を主張立証しない放送業者側に対して不利に判断されている。

  被告のサービス提供行為における役割が,判示のとおり認定されるのであれば, 本判決が指摘している
「『ロケーションフリー』の利用行為一般が著作隣接権や著作権の侵害に当たるとの主張,立証はない。」
「いわゆるハウジングサービス一般が著作権法に違反するとの主張,立証はない。」
「メーカーの設定する設定サービス等が著作権法に違反するとの主張,立証はない。」 のいずれかについて主張し,立証に成功しなければ,著作権侵害の結論を得ることは難しくなっているとといえる。
4. 今後の展開について
  本判決により,放送局側は,極めて不利な立場に立たされたといえる。
  簡単にいえば,地方局が提供する放送を,日本全国,海外をも飛び越えて視聴が可能になったといえるのである。
  ただ,本件におけるベースステーションは,入力されたアナログ放送波をデジタルデータ化してインターネット回線に送信することができる機器であり,2011年のデジタル放送移行後においては,本件サービス自体に対する判断が意味が無くなる過度的なものとなるとはいえる。
  著作権法と技術開発の進度,消費者の便益との調整は,立法論も含めて未だ続く問題となる。


以 上


(H20.8作成 :弁護士 岩原 義則) 


→【1】論説:弁護士就職難時代と司法試験合格者数の適正化について
→【3】論説:知的財産侵害物品の水際取締りについて
→【4】論説:ウェブサイトへの著作物の無断掲載、著作権侵害による損害の算定について
→【5】記事のコーナー :技術調査について
→【6】記事のコーナー :平成20年特許法等改正に伴う特許料・商標登録料等の料金改定について
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