発行日 :平成20年 7月
発行NO:No21
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【4】論説〜ウェブサイトへの著作物の無断掲載、
著作権侵害による損害額の算定について〜
  近年、インターネットのウェブサイトに無断で著作物をアップロードし、誰でもアクセスして閲覧できるようにする行為 が後を絶ちません。このような行為によって著作権者に損害が生じた場合、著作権者は著作物の無断利用者に対して不法行為 に基づく損害賠償請求ができるのが原則です(民法709条)。すなわち、民法709条は『故意又は過失によって他人の権利 又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う』と定めているところ、著作物の無 断利用者は、通常は「故意又は過失」があるといえ、また著作権の効力が及ぶ利用行為は著作権法21条から28条までに規定 される行為に限定されるところ、上記行為は送信可能化行為(著作権法23条1項)にあたり(厳密には通常その準備として 複製行為もある)、「他人の権利」たる著作権を「侵害した者」といえます。では、「これによって生じた損害」はどのように 算定するべきでしょうか。

1 著作権侵害による損害算定方法
  まず、民法709条でいう損害とは、侵害行為と相当因果関係にある損害を意味し、その額は著作権者側で立証しなければ なりませんが、例えば相当因果関係ある損害にあたる消極的損害として、侵害がなければ著作権者が得られるはずであった利益 を立証することは容易ではありません。

  そこで、著作権法は次のような損害額の推定規定ないしみなし規定を置いて、立証の負担を軽減しています。
@侵害者が侵害行為によつて作成された物を譲渡(公衆送信等含む)したときは、その譲渡等数量に、著作権者がその侵害行為 がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額(著作権法114条1項)
A侵害行為により侵害者が利益を受けている場合は、その利益の額(同114条2項)
B著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(使用料相当額)(同114条3項)
  著作権者側はこれら@ないしBのいずれかにより損害額を立証できます。侵害者側は、@及びAの場合には、減額事由の主張 や実際の損害額の反証をなしえますが、Bの場合はそれが認められないとされています。著作権法114条3項は、特許法102条3項 と同様に、損害額の最低限を画する趣旨と考えられているからです。

2 東京地裁平成19年9月13日判決
 本判決の事案は、多数の漫画単行本をスキャナーで読み取り、その画像ファイルをインターネットWebサイトを通じて不特定多数 の者が閲覧できるようにした被告らに対し、その作者である漫画家11人が原告となり、著作権(公衆送信権)侵害の不法行為に基づく 損害賠償を請求したというものであり、原告の被った損害の額が問題となりました。
  被告らは著作権法114条3項に基づく使用料相当額を自己の損害額として請求しました。
  本件において漫画の閲覧はほぼ無料で可能となっていたため大量のアクセスがありました。114条1項に基づく請求の場合、 「譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情(114条1項但書)」等による減額 の抗弁が可能であり、同条2項の場合は、侵害者が得た利益を損害額と推定する規定であるため、本件では、同条3項に基づく請求が 最も便宜でした。

  そして、判決では、オンラインコミックを販売しているイーブックやYahoo−Book等を参考にして、漫画を電子書籍化した場合の想定販売価格は1冊300円を下らず、使用料率は想定販売価格の35%を下らないとし、さらに、Webサイトのアクセス総数を推計した上で、作者名、タイトル名、巻数ごとの閲覧総数を認定し、これらを乗じて作者別の使用料相当額(損害額)を認定しました。
  すなわち、105円(=300円×35%)×閲覧総数を損害額と認定したことになり、例えば、閲覧総数が10万件であれば、 1050万円となります。(実際の請求は各作者200万円であり、被告らの現実的な支払能力等を考慮したものと考えられます。)

3 損害金額の妥当性
  では、これらは果たして高いのでしょうか。それとも安いのでしょうか。
  前記のとおり、使用料相当額のみなし損害額を定めた著作権法114条3項は、損害額の最低限を画する趣旨である特許法102条3項に由来するものです。すなわち、権利侵害商品が販売されていた場合に、それがなければ権利者が得られたであろう利益や、侵害者の得た利益というものは、高額な賠償請求が可能である反面、反論・反証の余地があるので、せめて使用料相当は認めようという趣旨の規定です。しかし、本件のようにインターネット上で無料で閲覧可能としたような場合では、事情が大きく異なってきます。本件では漫画の閲覧は無料であったがゆえに膨大なアクセスがあったわけですが、仮に有料であったのなら、アクセス数はその何百分の1だったかもしれず、被告らの行為がなければ、その閲覧カウント数に基づいた利益が著作権者にもたらされたはずであるとはとてもいえません。

  また、これらのカウント数には、試しに1頁だけ見てアクセスをやめたようなものも全て含んでいます。実際に被告らはそのような反論を試みたようですが、判決ではほとんど考慮されていません。そう考えると、このような損害の認定は非常に高額で懲罰的なものとも思えます。
  しかし、反面、インターネット上で無料で閲覧可能とされ、膨大なアクセスがなされた場合、電子データの複写の容易性に鑑みれば、権利者に取り返しのつかない損害が生じるということもいえます。実際に、判決でも、イーブックやYahoo−Bookにおいては暗号化措置が採られていてプリントスクリーン機能が使えないなど、著作権者保護のための技術的措置が施されているのに対し、本件ではそのような対策は採られていない点が言及されており、複写により被害が甚大となる可能性がある点が考慮されたものと考えられます。(一方で、無料で見れるのに、わざわざそのような複写が現実に頻繁になされたとも想定し難いとも述べられています。)このような被害の回復困難性に鑑みれば、むしろ低額であるとも思えます。

  インターネット上の著作権侵害では、容易に侵害がなされ、被害があっという間に拡大する危険がある上に、侵害者自体は金銭的利益を得ていないという状況が今後も想定されます。損害額の認定及び被害回復は依然として困難な問題であり、今後のさらなる議論と裁判例の積み重ねが必要であるといえるでしょう。

(H20.8作成: 弁護士・弁理士 江村 一宏)


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