発行日 :平成20年 7月
発行NO:No21
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【3】論説〜知的財産侵害物品の水際取締りについて〜
1.税関の権限
  特許権、商標権、著作権等の知的財産を侵害する所謂コピー商品は、中国・韓国・香港・フィリピン・タイなどの東アジア地域で生産され、日本国内に持ち込まれるケースが多く見受けられます。このような海外から国内に輸入されようとする侵害物品に対し、水際での取り締まりを行う権限を有する機関が税関(Japan Customs)です。具体的には、税関長は、認定手続において侵害疑義物品が侵害に該当すると認定した場合、輸入者に対し、当該侵害物品の没収、廃棄、積戻し等の命令を発することができます。税関は、財務省の地方支分部局の1つであり、国内に、函館、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、門司及び長崎の8税関と沖縄地区税関が設置されています。

  なお、関税法第69条の11第1項は、「輸入してはならない貨物」として、「特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」(同9号)と、「不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号 まで(定義)に掲げる行為(これらの号に掲げる不正競争の区分に応じて同法第19条第1項第1号 から第5号 まで(適用除外等)に定める行為を除く。)を組成する物品」(同10号)を規定しています。税関による水際取締りの対象となるのは、これらの知的財産です。

2.輸入差止申立
   1) 意義
  上記のとおり税関には知的財産侵害物品を水際で取り締まる権限がありますが、国内に存在する知的財産は特許権、商標権など登録によって権利が発生するものだけでも膨大な数にのぼるため、税関で全ての知的財産の侵害の有無を確認することは実際には困難です。また、侵害かどうかの判断が難しいケースもあるため、予備知識がなければ侵害を見逃してしまうことも考えられます。
  そこで、税関において出来るだけ効果的な取締りを行うために、権利者が税関に対して輸入差止申立てをする制度があります。なお、申立てが受理された場合の有効期間は最長で2年間となりますが、必要なら更新することができます。

2) 申立ての要件
 特許権者、実用新案権者、意匠権者、商標権者、著作権者、著作隣接権者若しくは育成者権者又は不正競争差止請求権者は、自己の特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権若しくは育成者権又は営業上の利益を侵害すると認める貨物に関し、いずれかの税関長に対し、その侵害の事実を疎明するために必要な証拠を提出して、当該税関長又は他の税関長が認定手続を執るべきことを申し立てることができます(関税法第69条の13)。より具体的には、輸入差止申立てを行うためには下記ア〜オの5つの要件が必要となります。

  ア 権利者であること
  輸入差止申立てを行うことができるのは、知的財産権の原権利者、専用実施権者、専用使用権者、専用利用権者、不正競争差止請求権者です。権利者は、弁護士または弁理士を代理人として申立てを行うこともできます。

  イ 権利の内容に根拠があること
  権利の根拠を示すために、特許権、実用新案権、意匠権、商標権者については、登録原簿謄本を提出します。出願中のものは輸入差止申立てを行うことは出来ません。また、不正競争防止法については、法律上の保護を受けるための要件を満たしているかについて経済産業大臣の意見書を取得する必要があります。

  ウ 侵害の事実又はおそれがあること
  侵害物品が日本国内に輸入され出回っている場合は、その事実を証する資料(商品のサンプル、写真、カタログ等)を提出します。なお、侵害物品が現に国内に存在している場合に限らず、過去に権利侵害があった等の理由により侵害物品が日本国内に輸入されることが見込まれる場合も申立ては可能です。

  エ 侵害の事実等を疎明できること
  侵害の事実等の疎明のために、侵害物品の現物やカタログ、写真の提示等が必要となります。また、例えば、登録商標と類似する商標が使用された侵害物品に対して申立てを行うケースも考えられますが、このような場合は、税関においては侵害かどうかについて疑義があることになりますので、知的財産権を侵害していることを証する裁判所の判決書若しくは仮処分決定書、特許庁の判定書、弁護士または弁理士が作成した鑑定書の提出が必要となります。また、不正競争防止法に関しては、提出する証拠が侵害の事実を疎明するに足りると認められるものであることについて経済産業大臣の意見書を取得する必要があります。

  オ 税関で識別できること
  税関の職員が輸入品の検査で真正品と侵害疑義物品を識別できるように、識別ポイントに関する資料を提出する必要があります。例えば、侵害品のラベルは生地の端部の処理がされていないとか、特定の部分の色が異なるといった情報や、侵害品は真正品とは異なる特定の国から輸出されているといった情報を提出します。

3.認定手続
 輸入差止申立書が受理された後、輸入品の検査で侵害疑義物品が発見された場合、税関は、その侵害疑義物品が侵害物品に該当するか否かを認定するための認定手続を開始します(関税法第69条の12)。認定手続が開始されると、権利者・輸入者の双方に認定手続開始の通知とともに双方の名称・住所等が通知されます。権利者は、疑義貨物に対して点検又は見本検査を行うことができます。また、認定手続の間、権利者・輸入者は、証拠の提出、意見の陳述、弁明の機会が与えられます。
  また、認定手続が長期化する虞があるなどの場合、税関は、認定手続が終了するまでの間当該貨物が輸入されないことにより輸入者が被るおそれがある損害の賠償を担保するために必要があると認めるときは、権利者に対し、期限を定めて相当と認める額の金銭を供託所に供託すべき旨を命じることがあります。

4.税関における輸入差止手続の利点
  1) 輸入者を特定することなく侵害品を阻止できること
  知的財産権の侵害事件では、侵害品を取り扱った販売者は判明しているが、輸入者は不明の場合があります。販売者に警告書を送付して事実報告を求めても、外国人のバイヤーが飛び込みで売りに来た商品なので、バイヤーや輸入者に関する情報は知らないと販売者がいうようなケースです。輸入者を知っている可能性がある関係者が別にいるなど何か手掛かりがあれば、被告不祥で提訴した上で提訴と同時に調査嘱託を申し立てる方法もありますが、全く手掛かりがないような場合、裁判所に訴訟提起することは困難です。
これに対し、税関における輸入差止手続は、想定される輸入者が不明の場合でも申立ては受理されます。したがって、侵害品が出回っているが輸入者が不明なケースでは、有効な手段となります。

  2) 迅速な対応が取れること
  認定手続が開始された場合、税関は1ヶ月を目途に侵害か非侵害かの認定を行うこととされています。また、権利者は、税関長に対し、特許の技術的範囲や登録意匠の範囲について特許庁長官に意見照会請求することができますが、この場合も特許庁長官は30日以内に回答することになっています。
  したがって、権利者の立場からすると、特に侵害が明らかと考えられるケースでは、迅速な対応が取れることが期待できます。

5.参考
  参考情報として税関のホームページから下記ページを引用します。
  1) 認定手続の概要
  http://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/c_001.htm
  2) 平成19年の知的財産侵害物品の差止実績
  http://www.mof.go.jp/jouhou/kanzei/ka200305.pdf

(H20.08作成: 弁理士 山本 進)

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