発行日 :平成27年 7月
発行NO:No35
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【3】成年後見制度の活用について〜
1、 はじめに

  近頃、知的障害を有する方や認知症患者の方に対する暴行事件などが頻発しており、社会の構造的問題等が縷々指摘されていますが、現有の成年後見制度をうまく活用することでこの問題に対処していくことが可能であるように思います。もちろん成年後見制度には、財産管理を適切に行うことができるという大きな利点もありますが、ここでは、主に本人の権利擁護や自己決定権の尊重といった身上監護の側面における成年後見制度の活用について触れることにします。

2、 本人の権利保護

  既に現在、高齢者虐待防止法や障害者虐待防止法が施行されており、それにより高齢者や障害者の保護は図られています。ただ、こういった法規制が存在しても依然として虐待等の実態の把握・予防には不安な部分が残るものと言わざるを得ません。そこで、考えられるのが成年後見制度の活用です。成年後見制度とは、精神上の障害により判断能力が不十分な方に対して、家庭裁判所が後見人という援助者を選任し、この成年後見人が本人のために活動するという制度です(一概に成年後見制度といっても、法定後見制度・任意後見制度があり、法定後見制度には、更に本人の判断能力の状況に応じて、成年後見・保佐・補助が存在します。)。家庭裁判所により選任された成年後見人は、「生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」(民法858条)ものとされており、本人の利益を追求し、本人の権利侵害者に対して毅然と対応することとなります。従って、成年後見人が本人の状況について継続的にチェックを行い、本人に対して不当な権利侵害が行われていないかどうか目を光らせることができます。また、こういった存在が身近にいるだけで、事実上、虐待等を未然に防止する効果が期待でき、また虐待等が実際に発生した場合には早期に事態を的確に把握することが可能になるものといえます。

3、 本人の自己決定権の尊重

    成年後見制度には、前記の本人の権利保護という側面の他に、施設収容者であればその運営上の効率・慣習などによって無視されがちな、本人の残存能力の活用や自己決定権の尊重を可能にするという側面があります。本人自身に一定の希望・意向が存するという場合であっても、施設の運営方針のためにそのような意向が聞き入れられないとか、本人自身が気遣ってそのような主張自体をしないことも考えられます。そういった場合でも、成年後見人は真に本人が望んでいることを的確に把握し、その希望を叶えるために、施設に申入れを行ったり、場合によっては、医療に関する契約・介護等に関する契約・教育やリハビリに関する契約といった必要な契約を適切に締結するなどして、本人の自己決定権を実現することができます。本人は集団生活を送っている関係上、どうしても自身の希望が通らないことや、うまく希望を伝えられないといった事情に直面し、その中でストレスをため込んでしまったり、場合によっては施設職員との方と対立してしまい関係性が悪化したりする危険性があります。その中で成年後見人が前記のように本人の意向を第一としつつも、他面で公正な第三者の立場にも立ちつつ判断して、的確な権利主張を行ったり、必要な契約締結等を行うことでそのような事態を防止し、可能な限り本人の自己決定権の尊重を図ることができると考えられます。

4、 結び

    以上までの通り、近頃頻繁に報道されている知的障害者や認知症患者に対する虐待事件に対して、成年後見制度をうまく活用することで一定の活路を見出すことができるものといえます。成年後見人には親族等も就任可能ですし、弁護士等の専門職が就任することも可能です。この点、一般に弁護士後見人が必要とされるのは、当初から紛争性の高い案件や虐待が存するような案件であると言われることもありますが、前記までの通り、紛争や虐待などの問題発生を未然に防止するという面において、弁護士後見人が果たす意味合いも非常に大きいように思います。成年後見制度には、冒頭に述べた通り、財産管理等の大きな利点が他にも存在しますので、関心がお有りの方は、お近くの弁護士に御相談されるなど、御検討頂くのが良いものと考えられます。


(H27.7作成: 弁護士 河原 秀樹)


→【1】論説:買物代行業と小売役務商標の侵害事例について〜東京地裁 H27.1.29 判決(判例時報2249号86頁)〜
→【2】論説:色彩のみからなる商標の出願状況について〜
→【4】記事のコーナー:アンケート:「自分の名前をどう思っているか」について〜
→【5】事務所の近況:ウェアラブル端末〜
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