発行日 :平成28年 7月
発行NO:No37
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説:特許・実用新案取得費用の軽減について                         
〜特許料・審査請求料の減免制度と中小企業外国出願支援制度〜

1 特許・実用新案取得費用について
  皆さんが特許や実用新案を出願する際には、それぞれ出願費用がかかります。例えば、弊所で請求項が1つの標準的なボリュームの特許出願をした場合、拒絶理由を通知されることなくスムーズに特許されたとしても、下記のとおり、登録までに特許庁費用が金142,900円、弁理士手数料が378,000円の合計520,900円(消費税別)が必要となります。新製品を開発する際に創意工夫を凝らし他社にない技術的工夫に至ったとしても、市場に認知されてヒットするかどうか判らない発売前の段階で50万円を超える特許取得費用の負担に踏み切ることには少しハードルがあるかもしれません。

  しかし、個人・法人、研究開発型中小企業及び大学等を対象に、審査請求料と特許料(第1年分から第10年分)の納付について、一定の要件を満たした場合、減免措置が受けられる制度があり、最も効果的な個人に適用される制度を利用すれば、上記の費用のうち、特許庁費用が特許印紙代14,000円を除き全額免除になります。該当する個人の方は、特許取得費用が3分の2強になるのですから、この制度を是非、利用すべきです。
  また、上記の費用は、日本国内において特許を出願する費用を例示したものですが、その特許が価値があって国際出願をする場合にはこれとは別に相当額の国際出願費用が必要となります。この国際出願費用についても、中小ベンチャー企業・小規模企業等を対象として、その手数料軽減したり、国際出願交付金を支給する制度や外国出願費用を助成する制度が設けられています。該当する個人や企業の方々は是非これらの制度を利用して、知的財産を活用した事業展開を図るべきものと思われます。

  本稿では、これらの特許・実用新案取得費用を節約しつつ、出願人の権利保全に役立つ減免制度や助成制度を紹介します。
  なお、弊所においては、これらの制度の適用についてのご相談を随時受け付けています。また、減免の対象とならない弁理士費用につきましても、特別レートの適用によって個人・中小企業の権利取得をサポートさせていただきますので、お気軽にご相談ください。

2 国内出願にかかる特許料・審査請求料の減免制度
  日本国内において特許・実用新案を出願する場合、出願人の形態毎にその減免制度が異なります。その詳細は、次のとおりですが、実用新案出願については、個人についてのみ減免が認められています。

(1)個人の場合
要 件 審査請求料
技術評価請求料
特許料
(1〜10年分)
実用新案登録料
(1〜3年分)
必要書類
@生活保護受給 免 除 1〜3年分は免除、
以降1/2に減額
免 除 生活保護受給証明書
A市町村民税非課税 免 除 1〜3年分は免除、
以降1/2に減額
免 除 非課税証明書
B所得税非課税 1/2に減額 1/2に減額 免 除 納税証明書
源泉徴収票

(2)個人事業主の場合
要 件 審査請求料 特許料
(1〜10年分)
必要書類
C事業税非課税 1/2に減額 1/2に減額 事業税納税証明書
D事業開始後10年未満 1/2に減額 1/3に減額 事業開始届
E研究開発にかかる3要件のいずれかを
満たし、従業員数が業種毎の所定人数
以下であること *1 *2
1/2に減額 1/2に減額 所定の証明書
F従業員20人以下
(商業又はサービス業は5人以下)
1/3に減額 1/3に減額 小規模の要件に関する
証明書

(3)中小企業の場合
要 件 審査請求料 特許料
(1〜10年分)
G資本金3億円以下で、他の法人に支配されていない法人税非課税
企業又は設立後10年を経過していない企業
1/2に減額 1/2に減額
H研究開発にかかる要件にいずれかを満たし、従業員数が業種毎の
所定人数以下又は資本金等の額が業種毎の所定額以下であること
*1 *2 *3
1/2に減額 1/2に減額
I従業員20人以下
(商業又はサービス業は5人以下)
1/3に減額 1/3に減額
J設立後10年未満で資本金3億円以下の法人 1/3に減額 1/3に減額

(4)組合又は組合連合会の場合
要 件 審査請求料 特許料
(1〜10年分)
K研究開発の3要件のいずれかを満たすこと 1/3に減額 1/3に減額

*1 研究開発にかかる3要件
1) 試験研究費等比率が収入金額の3%超

2) 中小企業新事業活動促進法等に基づく認定事業に関連した出願であること
      ・中小企業技術革新支援制度の補助金等交付事業
      ・承認経営革新計画における技術に関する研究開発事業
      ・認定異分野連携新事業分野開拓における技術に関する研究開発事業
      ・旧中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法における認定事業
      ・中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律における認定事業

3)以下のいずれかの計画に従って承継した発明
      ・承認経営革新計画
      ・認定異分野連携新事業分野開拓計画
      ・中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律における認定計画

*2 業種毎の従業員数の所定人数
a 製造業、建設業、運輸業、その他(除くb〜e) 300人
b 小売業 50人
c 卸売業、サービス業 100人
d 旅館業 200人
e ゴム製品製造業 900人

*3 業種毎の資本金等の所定額
a 製造業、建設業、運輸業、その他(除くb、c) 3億円
b 小売業、サービス業 5千万円
c 卸売業 1億円


3 国際出願にかかる手数料の軽減及び国際出願促進交付金制度
 
(1)国際出願にかかる手数料の軽減措置
  産業競争力強化法に基づく特許料等の軽減措置により、中小ベンチャー企業や小規模企業が特許協力条約に基づき日本語で国際出願を行う場合の「調査手数料・送付手数料」、国際予備審査請求を行う場合の「予備審査手数料」について、1/3とする軽減措置が受けられます。「調査手数料・送付手数料」は80,000円程度で、「予備審査手数料」は26,000円程度ですから、合わせて約35,000円の軽減措置が受けられることになります。
  軽減措置の対象者は、特許協力条約に基づく国際出願をする日において、出願人全員が以下のいずれかの要件に該当する場合です。但し、大企業の子会社など支配法人のいる場合は対象となりません。
      a. 従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下)の個人事業主
      b. 事業開始後10年未満の個人事業主
      c. 従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下)の小規模法人
      d. 設立後10年未満で資本金3億円以下の法人

(2)国際出願促進交付金制度
  我が国の国際的な産業競争力の強化を図るため、『国際出願促進交付金交付要綱』に基づき、中小ベンチャー企業や小規模企業が特許協力条約に基づく国際出願を行う場合の「国際出願手数料」や国際予備審査請求を行う場合の「取扱手数料」について、納付金額の3分の2に相当する額が「国際出願促進交付金」として交付されます。「国際出願手数料」は165,000円程度で、「取扱手数料」は23,000円程度ですから、合わせて約125,000円の軽減措置が受けられることになります。
  交付対象者は、特許協力条約に基づく国際出願をする日において、出願人全員が(1)の国際出願にかかる手数料の軽減措置の対象者に該当する場合です。

4 中小企業外国出願支援制度

(1)中小企業外国出願支援事業
  経済のグローバル化により、中小企業においても海外進出が盛んとなっていますが 、特許などの産業財産権は国ごとに取得しなければならないため、発明について日本で特許を取得し、又は製品の名称について商標を登録してもその権利は外国では効力がないので、進出先においても特許権・商標権等の取得が必要です。進出先での特許権や商標権の取得は、企業の独自の技術力やブランドの裏付けとなり海外で事業展開を進めることに有益であるとともに、模倣被害への対策に有効で、商標等を他社に先取りされ自社ブランドが使用できなくなるリスクを回避できます。しかし、外国出願費用は現地代理人費用や翻訳費用などのため国内出願より高額であり、資力に乏しい中小企業にとっては大きな負担となっています。
  特許庁では、中小企業の戦略的な外国出願を促進するため、外国への事業展開等を計画している中小企業等に対して、外国出願にかかる費用の2分の1を助成しています。独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)と各都道府県中小企業支援センター等が窓口となり、全国の中小企業が支援を受けることができます。地域団体商標の外国出願については商工会議所、商工会、NPO法人等も応募できます。

  応募資格は、下記abのいずれかに該当する者で、応募時に既に日本国特許庁に対して特許、実用新案、意匠又は商標出願を行っており、採択後に同内容の出願を外国へ年度内に出願を行うことを予定していることが必要です。

    a「中小企業者」(個人事業主を含む)
    b 構成員のうち中小企業者が3分の2以上を占め、中小企業者の利益となる事業を営む「中小企業者で構成されるグループ」(「地域団体商標」については、商工会議所、商工会、NPO法人等も対象となる)

  選定基準は、下記a〜cが必要で、外国特許庁への出願手数料、国内・現地代理人費用、翻訳費用の2分の1が、1企業あたり300万円、1案件あたり特許150万円、実用新案・意匠・商標60万円、冒認対策30万円を上限として助成されます。

    a 先行技術調査等の結果から権利取得の可能性が明らかに否定されないこと
    b 外国で権利が成立した場合等に、「当該権利を活用した事業展開を計画している」か、又は「外国における冒認出願対策の意思を有している」こと
    c 外国出願に必要な資金能力及び資金計画を有していること

(2)冒認商標無効・取消係争支援事業 
  近年、海外で現地企業により、自社のブランドの商標や地域団体商標を悪意の第三者により先取り出願(冒認出願)されるトラブルが増えています。
  独立行政法人日本貿易振興機構では、このような場合に備えて、中国等海外で現地企業から自社のブランドの商標や地域団体商標を冒認出願された中小企業等に対し、異議申立、無効審判請求、取消審判請求、訴訟等に要する費用などの冒認商標を取消すためにかかる費用の3分の2を500万円を上限として助成しています。助成する費用には、弁護士、弁理士等の代理人費用が含まれています。
  支援の対象・要件は、次のとおりですが、公募の時期が限られており、助成決定後に支出した費用に限られていますので、できるだけ早期に検討することが必要となります。

    a 取り消そうとする冒認商標と同一又は類似の商標権を日本国で保有していること。
    b 「中小企業者」又は構成員のうち中小企業者が 2/3 以上を占める「中小企業者で構成されるグループ」であること(「地域団体商標」に関する係争については、商工会議所、商工会、NPO法人等も対象となる)。

(H28.07作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


→【2】論説:〜特許権侵害の損害額の算定において、製品の保守費用の利益額を特許権者の逸失利益として含めることができるかについて判断された事例〜
→【3】論説:〜老齢時の将来に備えた準備について〜
→【4】記事のコーナー:平成27年法改正による職務発明制度の概要〜
→【5】記事のコーナー:アンケート「オリンピックで楽しみにしていること」〜
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