発行日 :平成30年 8月
発行NO:No41
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【3】自己破産について〜
1、はじめに
  借り入れた当初は十分な収入があり返済が可能であると考えていたものの、突如として安定した収入が途絶えることとなったとか、思いがけない支出が続き、返済できない状態となったなどにより、債務を返済することができない状態となった時、どのような方法を考えられるでしょうか。知人などからお金を借り、取急ぎを凌ぐとか、借入先と交渉し返済を待ってもらうとかそういった方法がまずは想定されると思います。しかし、努力を尽くしたものの立ち行かない状態となった場合に、最終的には自己破産という法的手続きを取ることが想定されます。自己破産という名前をご存知の方は多くいらっしゃると思いますが、その内容については意外と知られていないことも多いようですので、本稿では同手続について、重要なポイントを中心に説明させていただきます。

2、自己破産手続きの目的
  破産法には、その目的として、「債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図る」ことと、「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る」ことが規定されている通り(同法1条)、自己破産手続きとは、平たく言えば、裁判所を利用して、自己の財産を清算して、その財産を債権者に配当した上で、それでも残ってしまった負債は免除してもらうという手続きです。では、破産者の財産は全て債権者に配当され、その後の負債はどんな場合でも、どんな負債でも免除されるのかというとそうではなく、それぞれについて以下のような例外があります。

(1)配当の対象とはならない財産(=これを自由財産と呼んでいます)
  自己破産手続きでは、債権者にとっては、破産者の財産は全て換価されて配当された方が良いわけです。ですが、それでは破産者の経済的な再起が困難となってしまいます。
  そこで、破産法では、破産者の経済生活の再生の機会を確保するために、破産法34条1項・3項に規定される通り、以下の@〜B(C・Dもありますが、基本的には@〜Bと想定してもらうのが良いだろうと思います)ような財産は自由財産として、破産者が債権者に配当せず保有することを認めています。
    @99万円以下の現金
    A差押禁止財産
  これには、生活に欠くことができない衣類、寝具、家具や一ヶ月間の生活に必要な食料や燃料などの差押禁止動産と給料債権の4分の3等の差押え禁止債権があります。
    B新得財産(破産者が破産手続開始決定後に取得した財産のことです)
    C自由財産の拡張がなされた財産
    前記@〜Bを残しただけでは、破産者の最低限度の生活が維持できない場合に裁判所の決定により認められるものです
    D破産管財人によて破産財団から放棄された財産)

(2)免責されない債務   いくら破産者の経済生活の再生の機会を確保するためとはいえ、免除するのが相当とは解されない債務や当該債務の債権者の生活の維持等の観点から免除するのが不相当と解される債務等が以下の通り、非免責債権と規定されています(破産法253条)。

      @租税等の請求権
      A破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
      B破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
      C破産者が扶養義務者として負担すべき費用に関する請求権
      D雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
      E破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
      (当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
      F罰金等の請求権

(3)免責不許可事由(自己破産を申し立てたとしても、免責が許可されない場合)
  破産者が自己破産に至った経緯については千差万別であり、自己破産手続 き中の破産者の対応も千差万別であるところ、いずれかの過程に、免責を許可 するに相応しくない事情(以下の@〜J)が存する場合には、裁判所は免責を 許可しないとされています(破産法252条1項)。
  ただし、以下の@〜Jに該当する事情が存する場合であっても、裁判所は免 責を許可するのが相当であると認める時は、免責許可の決定をすることができるとされており(破産法252条2項)、これにより免責許可の決定がなされることは多くありますので、@〜Jに該当する事情が存するからといって免責許可決定を諦められる必要はないといえます。

  @債権者を害する目的で、破産財団(債権者に配当される財産のことで、一般的には前記自由財産以外の財産を指します)に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと
  A破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと
  B特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと
  C浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと
  D破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと
  E業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと
  F虚偽の債権者名簿を提出したこと
  G破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は変造したこと
  H不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと
  I免責許可決定確定日等から7年以内に免責許可の申立てがあったこと
  J破産法上の義務違反行為

3、破産することによる破産者に生じる不利益
  自己破産を検討されるに際して、よく不安に思われるのが、同手続きを行う ことによって破産者にどのような不利益が生じるのかという部分です。そこで、 以下で想定される不利益について説明します。

(1)以後5年〜7年間程度は借入れやクレジットカードの使用が不能となること
  自己破産をすると、その事実が個人信用情報機関に事故情報として記録さ れることとなる(いわゆるブラックリストに載るとかブラック状態となると表 現される状態です)ため、クレジットカードや新たな借入れを行うことが免責 許可決定からおおよそ5年〜7年間程度は不能となります。

(2)一定の資格制限を受けること
  裁判所に対して自己破産の申立てをすると、申立て後、免責許可決定が確定 するまでの間(申立て内容によりますが、おおよそ半年程度となることが多い です)、以下のような一定の職業・資格に基づく活動が制限されます。 ・宅地建物取引業者 ・不動産鑑定士 ・土地家屋調査士 ・建設業者           ・生命保険募集人 ・警備業者 ・証券会社外務員 ・旅行業者 等々

(3)大きな不利益としては(1)・(2)が挙げられますが、その他に、よく他人に知られることを気にされる方がおられます。しかし、一般的にはそのような心配は不要だといえます。というのも、自己破産をすると官報に掲載されることになるものの、官報を購読している一般の方などほとんどいませんし、その他に債権者でもない他人が破産者の破産の事実を知る術は想定されないからです。

4、終わりに
  自己破産手続きについて、ある程度はお分かりいただけましたでしょうか。 自己破産を申し立てるためには、裁判所へ予納金及び申立手数料を支払う必要がある他、弁護士等の専門家に依頼される場合にはその費用も必要となります。いずれの費用についても破産者の債務額や事案によって大きく変動しますし、弁護士費用の立替払いが受けられる制度もあります。また、ご自身では破産するしか方法がないと御考えでも、実際には任意整理で進めることができる場合や個人再生手続きなど自己破産によらない方法が考えられる場合などもあります。ですので、検討される場合には、早めに弁護士等の専門家に御相談されるのが肝要です。

以 上

(H30.08作成: 弁護士 河原 秀樹)


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