発行日 :平成24年 8月
発行NO:No29
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
→事務所報 No29 INDEXへ戻る


   【2】論説:「SNSにおける名誉毀損」:今後多くなると思われる法的紛争類型[1]

1 はじめに
  Social Networking Service,略して,SNSが流行り,それに伴う法的紛争も多くなっています。SNSには,Google+,Facebook,mixiなどがあり,それぞれ特色が異なりますが,社会的ネットワークをインターネット上で行うことで共通し,問題となる「名誉毀損」も同様のものがあります。  問題点を少しづつ取り上げることにします。

2 SNSに特有な法律問題あれこれ
  まず,SNSに特有な法律問題について取り上げます。
2.1 名誉毀損に該当し得る「友だち」への投稿
  SNSによる名誉毀損は,書き込みの気軽さがあるのか割りと多く見られます。Google+にしろ,facebookにしろ,mixiにしろ,書き込みの公開範囲を決めることができますが,「友だち」の間といっても「不特定」または「多数」に対する侵害行為として,多くの場合は該当し得ると考えられます。
  この問題は,結構難しいですが,例えば,facebookでは,それほど顔見知りでもなくても,「友達」申請に応じれば,「友達」となることができます。  友達の数が多くなれば,当然,「多数」に対する名誉毀損となりえます。
  また,「友達」を厳選していても,「多数」の該当性は,裁判例上では,かなり少ない数でも「多数」とされており,また,その該当性には,伝播可能性も吟味されます。そうなると,たとえ,「友達」を厳選し,見かけ上は,「友達」の数が少なくとも,伝播可能性が考慮され,名誉毀損に該当することが多いと考えられます。
  いずれにしても,「友達」にしているだけだから!という言い分は通じにくいと考えたほうがよろしかろうと思います。

2.2 発信者情報開示請求の利用

2.2.1 「実名主義」と裁判手続
  実名によることを標榜するSNSも多くなりましたが,裁判等手続(訴訟,仮差押,仮処分,調停等を含む)を進めるには「実名」が分かっているというだけでは不十分です。実名主義といっても運転免許証等の提出が求められているわけでもないという事情もあり,たとえば,実名主義をとっていると言われるfacebookでも,それが,本当に戸籍上,または,住民票上の「実名」といえるかは,SNS上のやり取りだけでは確認しようがありません。
  また,「実名」であったとしても,裁判等手続には,「氏名または名称」に加えて「住所」が必要となります。このために,発信者情報開示請求の利用が必要な場合もありましょう(知人等によるとはっきり分かっていなければ必須になります)。

2.2.2 SNS運営管理者等に対する発信者情報開示請求
  発信者情報開示請求は,簡単にいえば,SNS運営管理者等に,侵害行為の存在を知らせ,必要な発信者情報の開示を求める請求です。
  まずは,
  各々のSNS運営管理者等が定めた形式に沿って情報開示請求をする
  ことになります。
  書式は,監督官庁がモデル書式を出していますが,ほぼそれに従って,各々が決めていることが多く,発信者情報開示請求訴訟の前提となります。訴訟の段階での主張とほぼ同じことを書くことになりますので,結構な手間ではあります。侵害対象の特定と求める法律的構成が必要になります。

2.2.3 発信者情報開示請求訴訟へ
  どのような情報を,SNS運営管理者が持っているかは,それぞれで異なります。例えば,facebookでは,
  http://dailynewsagency.com/2011/12/15/1200page-pdfs/
かなりの大量の個人情報を保有しています。facebookでは,怪文書的な名誉毀損よりも,加害者(名誉毀損侵害者)の特定は,かなりの程度楽だといえるでしょうか。
  ただし,情報開示請求を,SNS運営管理者等が拒否をすれば,SNS運営管理者等に対して裁判が必要になります。これを,
  発信者情報開示請求訴訟
  といいます。
  ちなみに,発信者情報開示請求は,訴額算定不能のばあいにあたり,訴額が160万円,つまり,地方裁判所管轄になります。名誉毀損という専門分野でもあり完全に弁護士事案といえます(司法書士では扱えない案件となります)。
  いずれにしても,「SNSによる名誉毀損」は,まず,誰が,名誉毀損侵害者かが大きく問題になります。たとえば,顔も名前もよく知っている知人であることが間違いがない!と考えても,慎重に,まずは,発信者情報開示をという進行も大いにありえます。
2.3 証拠確保,早期の確保を!

  SNSによる侵害行為で,まずもって問題となるのは,名誉毀損の証拠収集です。
  たとえば,ここで,このように記載されて侵害されていると相談があっても,その相談時には,もはや,SNSで追うことは難しい,SNSでは見れなくなっている,そのような場合もあります。
  また,SNSの特徴として,「一般公開」であれば,普通にぐぐれば見つかる場合も多いですが,「友だち」への投稿は,「友だち」にならなければ,名誉毀損の証拠確保が難しいといえます。
  さらに,たとえば,mixiでは,保存する前にアカウントを消して逃げられれば,どうにもならない場合がおおいといえます。
  証拠収集・確保するということは,ソースも含めた保存が必要になります。
  ブラウザーGoogleChromeなら,右クリック→ページのソースを表示して,テキストで保存しておくか,PDF保管等をすべきです。
  紙ベースでも印刷しておくとよいですが,その場合には,特に,内容と共に,刻々と変化するネット上の問題ですので,日付(時間)が重要です。印刷設定で,ヘッダーなりに,印刷日時,URLなどが出るようにして印刷しておきます。
  この証拠確保は,一刻を争います。
  弁護士に相談する前でも,なるだけ早い段階での名誉毀損の対象となるサイトの保存が不可欠です。

3 名誉毀損の要件
 ネット上の名誉毀損は,基本的には,通常の名誉毀損と同様の要件で判断されます。ネット上の名誉毀損,特にSNSによる「名誉毀損」は,文字による名誉毀損が多く問題となります。  なお,発信者情報開示請求では,後記免責三要件の主張立証も,名誉毀損被害者がしなければならないとされており,当初から詰めていくことが必要になります。

3.1 広義の名誉毀損性

3.1.1 狭義の名誉毀損性・・・一般人の読み方基準
  果たしてその表現行為が社会的にみて名誉毀損され社会的評価が低下がされたのかという名誉毀損性の要件も,争われることが多い論点です。単に,名誉毀損だと主観的に思うだけでは裁判の俎上には乗りません。
  名誉毀損文言を,一般人が読んだとき,確かに名誉毀損であると感じるという基準が問題となります。
  客観的な基準ぽいですが,「一般人の立場」とは,結局裁判官が,そう考えるということに陥りがちです。そのため,かなり結論に予想がつきにくい論点といえます。
  SNSにかかわる名誉毀損紛争としては,これについての他のコメント等として第三者の評価が記載される可能性があります。このようなコメントは,名誉毀損性の認定に役立つこともありえます。
  名誉毀損文言を,どこに取るか,つまり,もっとも名誉毀損性が認められやすい文言を問題にするという選択が必要になる場合もあります。

3.1.2 名誉毀損文言の特定問題・・・口頭では難しい
  通常のたとえば手紙などの名誉毀損とSNSも含むネット上の名誉毀損とは,裁判所の判断としてはあまり違いはありません。基本的には,同じ基準で判断されます。
  名誉毀損事件で,まず問題となるのは,名誉毀損文言の特定です。法律的には口頭でも名誉毀損とはなり得るのですが,いかなる文言によって判断されるべきかという「名誉毀損文言の特定」という観点からは,口頭では,言った言わないの水掛け論になりやすく,難しいということになります。
  SNSでも,口頭のチャット機能を利用して,こういうこと言われた!では,難しくなります。
  ただ,チャットといってもSNSでは,書かれる言葉のやり取りということも多いので,通常のよりは,書面化されやすいという特徴はあるでしょうか。

3.1.3 事実の摘示性・・・意見との違い
  あまり一般的には意識されない論点ですが,極めて重要です。名誉毀損では,簡単にいえば,具体的な事実が摘示されて名誉毀損の侵害をされなければなりません。事実とは異なる単なる「意見」は,最高裁判決により判断基準がかなり緩まり,ほとんど損害賠償が認められません(極めて簡単に言っています)。
  事実は一つとしても,それに対する意見は複数あるのが普通です。同じ事実でも異なる意見を持つのは自由である,という表現の自由の尊重が前提にあります。
  SNSでも,
  事実を述べているのか?
  ある事実を前提として意見を述べているのか?
  単に意見を述べているのか?
  という違いを意識する必要があります。
  たとえば,
          誰々は馬鹿である!
  というのは,基本は,意見です。
  バカというのは,証拠によって,その成否を確定することができません。証拠をいくらもってしても,バカであることを立証することはできないのです。
  これは裏返していえば,言葉の有する意味の問題でもあります。
  「バカ」というのは,その有する意味は多義的です。どんな意味で使っているかが,その文言だけでは分からないのです。
  そうなので,たとえば,
          ○○試験で,○○点しか取れなかったので,Aは馬鹿である!
  という記載は,事実の摘示を含みます。
  ○○試験で,Aが,○○点しか取れなかったか,または取れたかは,客観的に証拠によって確定できることになります。
  これを事実の摘示論といいます。
  実は,かなり難しい論点です。
  判断基準としては,「証拠によって決せられる」か否かです。

3.1.4 特定人への名誉毀損
  名誉毀損は,特定人へのものでなくてはなりません。
  誰か分からない者への名誉毀損は,「その人」に対する名誉毀損ではないので,損害賠償等を受領することができません。
  たとえば,
          何々国民は,○○だ!
  では,特定性に欠けるといわれます。
  特定性の議論は,とても難しいですが,特定性の要素を組み合わせて「その人」と特定できるかという議論になります。

3.1.5 議論の応酬の問題
  SNSにかかわる議論の問題として,「議論の応酬」という論点もあります。
  SNSでは,ある事実を摘示して名誉毀損をした場合,こちらもそれに応じて議論が積み重なる場合があります。  一つの発言だけを取り出せば,名誉毀損と言えても全体の話の流れから考えて,反論・反論の積み重ねとみられる場合には,名誉毀損と認められない可能性があります。

3.2 真実性・真実相当性について

3.2.1 免責三要件と公益性・公共性要件の位置づけ
  名誉毀損とされた場合,これは,今まで書いてきたものが全て充たされたということになります。
  この場合でも,損害賠償等を免れることができる場合があります。
  これを,名誉毀損の免責三要件と言います。
  簡単に書けば,
  1 公益性・公共性
  2 真実性
  3 真実相当性
  が必要ということになります。
  1は,単なる私人間のことを公に述べるべきではないという観点からの免責要件です(簡単に述べています)。
  要件的には,2・3の真実性・真実相当性要件の検討が先立つのが普通です。

3.2.2 真実性・・・証明可能な程度の真実性
  さて,真実性は,簡単にいえば,摘示した事実が「真実であること」です。名誉毀損は,真実であっても成立し得ます。しかし,真実であれば,表現の自由を優先することもあるという配慮とも言えます。
  真実性は,客観的な判断要件です。「証拠により証明可能な真実」ともいえます。証拠により「真実」か否かを判断します。証拠がなければ,たとえ,神の目からみた「真の真実」でも裁判上では,「真実」と認められないことも起きます。
  裁判をするには,その裁判をするための資料をどこまで取り入れることができるかが問題になります。これを,「真実性の基準時」論といいます。
  裁判では,事実審の口頭弁論終結時までが判断資料の範囲内となりますので,「真実性」は,事実審の口頭弁論終結時までの資料により証明可能な程度の真実と言い換えることができます。

3.2.3 真実相当性・・・真実性を緩和した要件ではない。
  真実相当性は,摘示した名誉毀損事実が,「真実」だと思ったことに相当である場合に,損害賠償等を免責するための要件です。
  真実性判断は,あくまで客観的な判断ですので,色々調べても,結果的に真実ではないことはありえます。
  そのような場合に,その真実に近づく努力を評価したといえましょうか。真実と誤信したことについての要件です。
  真実相当性判断は,一般に言われているのとは違い,単に真実と盲信した,または,安易に信じたでは認められる要件ではありません。その厳しさ,たとえば,資料を得る努力は,相当に必要になります。真実相当性も,証明可能な程度の厳しい真実性が要求されることになります。
  真実性と真実相当性との違いは,最高裁判決が述べましたが,資料の判断時期の違いとなります。真実が,裁判上の真実,つまり,判決に取り入れることの精一杯の制限範囲となる口頭弁論終結時までの資料を問題にする反面,真実相当性は,「名誉毀損行為時」が基準になります。
  たとえば,新たな研究成果により,行為時以後に新たに「真実」とされた場合,分かりやすいのでいえば,刑事事件において一審判決で有罪となり,その後,二審判決で無罪となった場合,二審判決が出される前に一審判決が認定した事実を元にして事実摘示をすれば,真実性はないが,真実相当性があると判断されることになります(厳密にいえば難しい問題はあります)。
  このように,真実相当性要件は,真実性を緩和した要件ではないことに注意が必要です。
  近年,最高裁判決によりネット上においても,真実相当性を緩和することに消極的な判決が出ております。
  安易にネット上に転がっているものを,「真実」として事実摘示しても,真実相当性は認められません。
  真実相当性要件については,私のブログに,より詳しく書いています。
  名誉毀損の要件:番外編−団藤博士の偉大さ−  
3.3 損害論

3.3.1 損害の高額化
  名誉毀損は,損害の高額化が進んでいると言われています。
  かつては,数十万円にとどまる損害額が,数百万単位で算定される場合も多くなったと言えるでしょうか。

3.3.2 損害論の考慮要素
  名誉毀損の損害論での考慮要素は,慰謝料の一般的な基準が妥当します。表現行為の内容,方法,SNSでは,どのようなやり取りの中で出てきた表現行為かなど,さまざまな事情が考慮要素となります。

3.3.3 SNSを含むネット上での損害拡大可能性
  SNSも含むネット上での名誉毀損は,
          簡単に多くの人に伝わりやすい
          いったんネット上に流出すれば削除がしにくい
  という大きな特徴があります。
  名誉毀損侵害者,または,名誉毀損被害者が有名人であれば,余計広がりやすいという側面があります。
  有名人が直接SNSに参加できるようになり,編集の段階で排除されてきたような名誉毀損表現が,いきなり出てくるという事態の変化も影響しているといえます。
  いずれにせよ,SNSを含むネット上での損害は,たとえば,フォロー者数,友達数で損害を算定するのも一つの方法で,損害の拡大可能性が,損害の高額化につながる要素として重要視されるといってよいでしょう。
4 気になる弁護士費用
  SNSにおける名誉毀損にかかわらず,名誉毀損事件は,結論を得るまでに結構労力がかかります。また,法律的な判断もかなりの程度必要となります。
  弁護士費用としては,だいたい,
  着手金20万円?,報酬は,旧弁護士会基準で,大体16%,
  となろうかとおもいます。
  なぜか?

4.1 本人に行き着くまでが結構たいへん
  先に述べた発信者情報開示請求が前提になることが多い(知人レベルで,誰がやったかはっきりわかっており,本人も否定していないのであればよいが・・・)。
  発信者情報開示請求は,名誉毀損の相手方とは別に裁判になることも多い(裁判で開示の当否を決めてもらおうというプロバイダ等の対応があります)。
  じつは,発信者情報開示をしても,住民票上の住所をSNS運営に登録しているとは限らない(SNSの実名主義といっても,法律的には,あまり変わらない話なのです)。
4.2 少ない得られる利益
  名誉毀損は,高額化しているといっても,名誉を回復ということが主眼になることがおおく,得られるメリット,つまり,相手から取ることができる金額は,少ないということも多いといえます。   弁護士費用は,報酬が簡単に多く相手方からとれれば(または,その見込があれば),安く設定することも可能ですが,いまだ現状ではそうはなっていないといえます。
4.3 回収の見込みの低さ
  弁護士費用は,回収の見込みが高ければ,安く設定することもできます。
  大手業者が多い過払金類型や,最強の債権ともいえる未払い賃金等では,回収見込みが高いので,比較的弁護士費用も安く設定できます。
  しかし,名誉毀損をする者は,基本的に,個人です。
  個人相手であれば,よほどの人でなければ,判決で数百万と出たとしても回収の見込みが少ない事案といえます。
4.4 法テラスを利用した扶助対象
  そうはいっても・・・・
  ということで,法テラスを利用した扶助対象になる場合もありましょう。
  ただし,法テラスは,着手金・報酬を担当弁護士が決められませんので,実際は,法テラスのほうが高いということも場合によってはあります。

5 まとめ

   以上,SNSによる名誉毀損で問題となる点をあげてみました。SNSが舞台となった名誉毀損事件は,名誉毀損侵害者までにたどり着く必要があるということで,他にはない,かなりの特殊性があります。しかし,裁判になってしまえば,あまり普通の名誉毀損事件と変わらないと評価することができます。



以上

(H24.8作成 :弁護士 岩原 義則) 



→【1】論説:<キーワードバイと商標権侵害について>〜商標法2条3項8号該当性についての考察〜
→【3】論説:請求項の記載順序についての考察
→【4】論説:著作権の消尽について
→【5】記事のコーナー:アンケート:「あかんメシ」や今はまっている食べ物について
→【6】記事のコーナー:事務所の近況
→事務所報 No29 INDEXへ戻る



溝上法律特許事務所へのお問い合わせはこちらから


HOME | ごあいさつ | 事務所案内 | 取扱業務と報酬 | 法律相談のご案内 | 顧問契約のご案内 | 法律関連情報 | 特許関連情報 | 商標関連情報 |
商標登録・調査サポートサービス | 事務所報 | 人材募集 | リンク集 | 個人情報保護方針 | サイトマップ | English site
1997.8.10 COPYRIGHT Mizogami & Co.

〒550-0004 大阪市西区靱本町1-10-4 本町井出ビル2F
TEL:06-6441-0391 FAX:06-6443-0386
お問い合わせはこちらからどうぞ