発行日 :平成17年 7月
発行NO:No15
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
→事務所報 No15 INDEXへ戻る


   【2】論説〜平成17年改正不正競争防止法について〜
1 改正法の概要

平成17年6月22日、営業秘密の保護強化、模倣品・海賊版対策の強化等を目的とする不正競争防止法等の一 部改正案が成立しました。施行日は、公布後1年内の政令で定める日からです。
 模倣品・海賊版対策の強化については、@著名表示の冒用行為への刑事罰の導入、A商品形態模倣行為への刑事罰の導入、B関税定率法に基づく水際措置の導入が、営業秘密の保護強化については、@営業秘密の国外使用・開示処罰の導入、A退職者の処罰の導入、B法人処罰の導入が、特徴的な改正となっています。また、従来の判例解釈等を明確化する定義規定の新設、従前の罰則の加重、弁理士法等の改正もなされました。
 以下、改正の詳細と実務上における注意点について説明します。 

2 著名な商品等表示の冒用対する罰則の新設
    (不正競争防止法2条1項2号関係)

 いわゆる偽ブランド品対策のため、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為」について、信用名声を利用して不正利益を得る目的、または、図利若しくは加害の目的をもってした場合に5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金またはこれらの併科という罰則が追加されました(改正不正競争防止法21条1項3号)。

3 商品形態模倣行為の明確化と罰則の追加
    (不正競争防止法2条1項3号関係)

 商品形態模倣行為について、「商品の形態」の定義を「需用者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。」  とし、「模倣する」の定義を「他人の商品に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。」とする定義規定が設けられました。改正後の商品形態模倣行為は、「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸し渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」と規定され、販売後3年以内の商品形態に限る点は適用除外規定とされました。

 従来、内部構造についての形態が「模倣」となるかなどについて争いがあり、裁判にもなりましたが、改正法は内部構造についても商品の形態になりうることが明確にしました。したがって、外観と内部構造の組み合わせで、どのような場合に商品形態の模倣になるかは、「使用に際して知覚によって認識することができる」という条文の文言から、

   @ 外観の比較  「実質的に同一」
      →内部の構造にかかわらず、「模倣」
   A 外観の比較  「機能上不可欠な形態、ありふれた形態」
      →内部の構造が、「実質的に同一の形態」であれば、「模倣」
   B 外観の比較  「実質的に同一でない」
      →内部の構造が、「実質的に同一の形態」であっても、「模倣」ではない。


という解釈になり、外観の比較で実質的に同一でなければ、内部構造の形態が実質的に同一であっても、「模倣」ではないことになります。
 他方、不正の利益を得る目的で行った商品形態模倣行為に対して、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金またはこれらの併科という罰則が追加されました(改正不正競争防止法21条2号)。

 不正競争防止法2条1項3号の「模倣」については、法律的な判断であることに実務上注意すべきです。実際の裁判では、一般的に見た目で「極めて似ている」と判断できる商品にもかかわらず、個々の「相違点」を詳細に判断されて、「模倣」ではないとされる場合もあります。平成17年改正によっても、「機能上不可欠な形態、ありふれた形態」は除外され、また、日本国内で最初に販売された日から起算して3年を経過した商品の形態模倣も、適用除外とされています。その意味では、「模倣」商品に対する対策としては、刑事罰が加わっただけで、不十分な改正とも言えます。
 また、「意匠権」、「商標権」の登録が可能な商品については、登録をしていないことが斟酌され、未登録での「模倣」について、実際の裁判で不正競争行為に該当しないと判断される可能性があることにも留意すべきです。
 逆にいえば、費用対効果の問題を考慮にいれる必要はありますが、「模倣」に対する最大の対策は、登録可能なものは、登録しておくことといえます。

4 税関における水際措置の導入

 周知表示混同商品(不正競争防止法2条1項1号)、著名表示冒用商品(同2号)、商品形態模倣商品(同3号)  の輸入を税関で差し止める措置が関税定率法の改正により導入されました。
 この改正は、平成18年3月1日から施行されます。


5 営業秘密に対する刑事的保護の強化
    (不正競争防止法2条1項4号、7号、5号、8号、6号、9号関係)

 営業秘密について、不正取得(4号)、正当取得後不正開示(7号)、取得時悪意の二次的取得(5号、8号)、取得時善意の二次的取得(6号、9号)に関する不正競争行為の要件は、従前どおりですが、@役員又は従業者の退職後の使用、開示行為及び不正競争の目的でする転得者の使用、開示行為に対して、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金またはこれらの併科という罰則が追加されました(改正不正競争防止法21条1項8号、同9号)。また、国外犯の規定(改正不正競争防止法21条4項、5項、6項)及び法人に対する両罰規定(改正不正競争防止法22条)が新設されるという刑事罰の強化も図られました。
   「企業秘密」を盗まれた!という相談は、近年増加している実感がします。しかしながら、一般の方が認識している「企業秘密」と、不正競争防止法で保護される「営業秘密」とは、実際上は差があるので注意が必要です。
 不正競争防止法上保護される「営業秘密」は、その定義規定(不正競争防止法2条4項)により、
       @ 秘密管理性
      A 有用性
      B 非公知性


が必要とされています。Aの有用性は、重要な情報だからこそ盗まれたことが問題になるわけですから、実際上は余り問題とはなりません。また、Bの非公知性は、他の文献等に記載されていることなどが挙げられますが、秘密である以上通常その要件は満たされていますから、これも問題とならない要件と思われます。問題となるのは、@の「秘密管理性」で、これは、判例では、極めて厳しい条件となっています。経済産業省は、この点に関して、判例から読み取れる「ミニマムの管理水準」と「望ましい管理水準」を定めていますが、この「ミニマムの管理水準」では、「アクセス制限の欠如」として、

       他の一般情報との区別がない。
      保管場所の特定をしていない。
      保管場所を施錠していない。
      ネットワークにパスワードを設定していない。
      アクセスについて人的・時間的制限がない。
      秘密保持契約を結んでいない。
      社内において営業秘密の管理者が存在しない。
      社内において営業秘密の管理教育がない。


等を挙げ、さらに「客観的認識可能性の欠如」として、
      「マル秘」、「部外秘」、その他機密事項である旨の表示がない。
等を挙げています。
 実際に相談を受ける事案では、この「ミニマムの管理水準」さえも充たされないものも多く感じます。この「ミニマムの管理水準」が充たされていない場合は、不正競争防止法で保護されないことを強く認識する必要があります。  例えば、元「営業」担当の「社員」の場合は、営業に役立たせるために、できる限り広く使わせるという営業方針の下で、不正競争防止法の保護に必要な「ミニマムの管理水準」さえも疎かになることが多いのが実情です。その意味では、不正競争防止法を実際に扱う立場としての実感としては、「企業秘密」の保護について、不正競争防止法に頼り切ることを止め、社員・取引先に対しては「秘密保持契約」(秘密保持契約は、その違反自体が、債務不履行責任となります。)を、社員に対しては例えば退職金支給に関する「就業規則の見直し」など多方面にわたる対策が必要となります。また、何が秘匿すべき重要な「企業秘密」となるか、事前に把握しておくことも重要です。情報の重要性の程度に応じて、「望ましい管理水準」、「ミニマムの管理水準」のいずれの水準で保護するのか、「秘密保持契約」をどれだけ詳細に規定するのかなどの「情報戦略」が必要となります。


6 経済産業省の指針

 経済産業省は、知的財産を核とした企業戦略のための「参考となるべき指針」として、以下の指針を公表しています。
 各企業においては、これらの指針を十分斟酌した「情報戦略」を採ることが必要と言えます。
 
(1)知的財産の取得・管理指針 (2003年3月14日公表)

(2)営業秘密管理指針 (2003年1月30日公表)

(3)技術流出防止指針〜意図せざる技術流出の防止のために〜(2003年3月14日公表)


7 参考URL

 経済産業省知的財産政策室「平成17年改正不正競争防止法」
  
以 上


(H17.7作成 :弁護士 岩原 義則) 


→【1】論説 :特許の成立や効力を争う手段
→【3】論説:地域ブランドの保護について
→【4】記事のコーナー :実用新案制度の改正について
→【5】記事のコーナー :事務所の近況〜旅行に関して・・・〜
→事務所報 No15 INDEXへ戻る



溝上法律特許事務所へのお問い合わせはこちらから


HOME | ごあいさつ | 事務所案内 | 取扱業務と報酬 | 法律相談のご案内 | 顧問契約のご案内 | 法律関連情報 | 特許関連情報 | 商標関連情報 |
商標登録・調査サポートサービス | 事務所報 | 人材募集 | リンク集 | 個人情報保護方針 | サイトマップ | English site
1997.8.10 COPYRIGHT Mizogami & Co.

〒550-0004 大阪市西区靱本町1-10-4 本町井出ビル2F
TEL:06-6441-0391 FAX:06-6443-0386
お問い合わせはこちらからどうぞ