発行日 :平成22年 8月
発行NO:No25
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜自炊の後始末:電子書籍化と著作権〜
1. 書籍裁断→スキャナーPDF化(以下「自炊」行為という)
  電子書籍化のため,バラバラになった書籍の後始末の問題です。

2. 裁断(バラバラ)の可否
  自分の買った本を,どうしようと所有者の勝手です。破こうが,バラバラにしようが,捨てようが自由です。  そのため,このこと自体は,問題には普通はなりません。

3. PDF等化(なお,JPG化,Zip化,ePub化も議論は同じです)
  自分の本を,PDF化することも著作権法上は問題にはなりません。PDF等の概念としては,元の本と同じデータができるということになります。著作権法の言葉としては「複製」にあたります。
 ただ,複製も,私的利用の範囲で認められています。
 そのため,単にPDF化も普通は問題となりません。

4. 想定される各場合
4.1. バラバラになった本自体を自分が売る場合
4.1.1. 手元にPDFを残さず,データを破棄する場合 ◎
 この場合は,余り問題となりません。
 データが元の所有者にも残らず,普通に,バラバラの本を売るということに他なりません。バラバラにするという手間や機材の調達もありますので,その本の売価に,料金を上乗せすることも許されます。

4.1.2. 手元のPDFを破棄しない場合 ◯か?
 この場合は,データが手元に残ることになります。
 概念的には,本の現物とPDFの複数が,この世に存在することになります。
 しかし,普通の私的利用でも,コピーした自分のものを破棄しろ!とはなりません。余り事例はないですが,これも許されるものと思われます。
 データを更に別に売ったら,許されないというのは言うまでもありません。

4.2. データを売る場合
4.2.1. 本は破棄し,データのみを売る場合 ◯と考える
 著作権の私的利用は,通常は,その現物を基準にします。
 そのため,私的利用として複製したもの(今回は,PDF)の利用が私的の範囲とされなければなりません。
 現物を破棄しようが,複製物を売る行為が許されるかは,大変な問題です。
 これは,自炊の行為を,どのようにみるかということに大きく関わると考えられます。つまり,複製物を作るという,単に,PDF等化だけの行為をみれば,正しいといえます。
 しかし,自炊行為は,PDF等化それ自体が目的ではありません。
 現物の本をスキャナーにかけ,PDF等化し,自分で電子書籍を作ることを目的とする一連の行為が問題とされなければなりません。
 元々自炊行為の意義は,紙媒体は要らないという発想から来ています。
 そのため,本の現物を入手するのは,自炊行為の経緯を辿る電子書籍を手に入れるための全体としての行為の一部行為に過ぎないといえます。
 電子書籍が普及せず,本の流通等個人とは如何ともし難い状況の中での苦肉の策ともいえましょう。

 例えば,事前に,
  この本を電子書籍化(裁断・PDF等化)してくれ
  現物の本はいらない
という依頼を受けてからであれば,かなり状況が違います。
 この場合の複製者の主体は,依頼者となるはずです。現実に複製した者は,法律的には依頼者の手足に過ぎません。
  依頼者が,息子や弟に小遣いを与えて作業を頼むことと同視できれば,よい
ということになります。
 事前に,上記のような依頼がない場合,つまり,今回の場合の法律構成としては,
   本の売価の取引と共に,
   自ら手足として作業を行った結果を含む行為の対価を求める行為
といえます。つまり,
 潜在的に需要がある(これは否定できないでしょう)
 電子書籍化手足としての代行行為
を先立ってやったに過ぎない
と構成できます。
つまり,本の現物を破棄し,データのみを売る行為は許される
ものと考えられます。

 最終的には裁判所が決めるべき判断ですが,それらの係争になった場合には、もちろん,出版等業界の現状も十分に立証する必要があります。その際には,補助参加の利用等集団訴訟をも視野に入れる必要があります。ただ,念のためいえば,私的利用行為一本で争うことになりますので,かなり困難な事案とはいえますし,リスクも,かなりあることは疑いがありません。

4.2.2. 本は破棄せず,データのみを売る場合 原則×,例外もあるか?
 この場合は,原則としては,
   許されない
と考えられます。
 特に,更にデータを別に売るということが想定されれば,
 仮に,
   依頼者を,法律的な複製者,
   現実の複製者を,その手足
とした場合でも,依頼者としての私的利用の範囲を超えることになります。

あくまで現実の複製者は,手足としての行動をしなければなりません。
ただ,しかし,例えば,電子書籍化したデータを売った場合,すぐさま現物の本を破棄しなければならないということも,変な話です。
依頼者が,PDF化したデータを誤って破棄した場合等では,手足の者に,再度データ化を要求するのも当然です。
弟に小遣いを与えて作業を頼んで,やってもらったが,
乱丁があったり,綺麗にできていない場合,
更に小遣いをやらんぞ!
もう一回やれ!
となるはずです。

この場合,弟は,もう捨てた!
となった場合…。
それと一緒とみることができれば,
  PDF等のデータバックアップとしての保管行為
として,
  本の現物を破棄しないことが,
必ずしも違法とはいえない事態も出てくると考えられます。

以上,電子書籍という新しい流れの中で,現在の著作権法では必ずしも対応できていない部分について色々考えてみました。必ずしも正解とは言い難いですが,議論の下敷きになって頂ければ幸いです。

以 上
(H22.7作成 :弁護士 岩原 義則) 


→【1】論説:歴史上の人物名からなる商標出願について
→【3】論説:原告商品を模倣した商品を譲り受けたときの被告の善意無重過失について争われた事例
→【4】論説:賃借人死亡の場合の法律関係と賃貸人の対応
→【5】記事のコーナー :「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)の審査基準の改訂について
→【6】記事のコーナー :外国への特許出願について〜中国〜
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