発行日 :平成18年 1月
発行NO:No16
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【2】論説〜新聞の「見出し」と著作権法、不正競争防止法、不法行為性について〜
1 新聞の「見出し」に関する知財高裁判決

 読売新聞社が、自社の「見出し」をホームページに使われたことに対して、注目すべき判決が、知財高裁において出された。
新聞の「見出し」は、字数制限があり表現としては制限がありながら、新聞社が読者に対し、記事の内容を簡潔に伝えるために、 労力等を費やすものであることは間違いがない。
本知財高裁判決は、使われた新聞の「見出し」の著作物性判断、不正競争防止法該当性、不法行為性について、詳細に検討をし ており、「著作物」の限界、HP上の表現についての「商品の形態の模倣」(不正競争防止法2条3項1号)該当性、不法行為(民 法709条)となりうる基準を示したものとして、また、排他的権利である著作権法、不正競争防止法上の請求を認めなかったにも かかわらず、個別的救済手段として不法行為を認めたことに高い意義を有するもので、今後の参考になる判例である。

2 著作権法違反

2-1 著作物性判断について
まず、知財高裁判決は、新聞「見出し」の著作物性判断について、次のとおり、述べる。
【一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質か ら導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く, 創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考 えられる。
 しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否 定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記 事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。】

 つまり、一般論として、創作性具備は「容易ではない」が、直ちに全てが否定されるものではなく個別具体的に検討すべきと述 べている。

 地裁判決は、この点について、
【@YOL見出しは,その性質上,簡潔な表現により,報道の対象となるニュース記事の内容を読者に伝えるために表記されるもので あり,表現の選択の幅は広いとはいえないこと,AYOL見出しは25字という字数の制限の中で作成され,多くは20字未満の字数で 構成されており,この点からも選択の幅は広いとはいえないこと,BYOL見出しは,YOL記事中の言葉をそのまま用いたり,これを短 縮した表現やごく短い修飾語を付加したものにすぎないことが認められ,これらの事実に照らすならば,YOL見出しは,YOL記事で記 載された事実を抜きだして記述したものと解すべきであり,著作権法10条2項所定の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」 (著作権法10条2項)に該当するものと認められる。 以上を総合すると,原告の挙げる具体的なYOL見出しはいずれも創作的表現とは認められないこと,また,本件全証拠によるも YOL見出しが,YOL記事で記載された事実と離れて格別の工夫が凝らされた表現が用いられていると認めることはできないから,YOL見 出しは著作物であるとはいえない。】
以上を総合すると,原告の挙げる具体的なYOL見出しはいずれも創作的表現とは認められないこと,また,本件全証拠によるもYOL見出しが,YOL記事で記載された事実と離れて格別の工夫が凝らされた表現が用いられていると認めることはできないから,YOL見出しは著作物であるとはいえない。】

と述べている。一見、知財高裁判断とは異なる判断をしているようにもみえるが、地裁判決は、まず、具体的な考察をした上で、本 件における「YOL見出し」についての一般論を述べており、新聞の「見出し」は全て著作権法10条2項に該当すると判断したもの ではないと認められ、実質的には、同一の判断をしているといえる。
 いずれにしても、地裁、高裁を通じて、本件「見出し」には、著作物性は認められなかった。

2-2 具体的判断について
 読売新聞社は、著作物性の判断を求める対象として、合計365個の「見出し」(更に多くを主張されているが、判断の対象となったのは、この365個のみである。)を主張したが、特に主張したものは、次の6つである(地裁、高裁を通じて)。
 @「マナー知らず大学教授,マナー本海賊版作り販売」
 A「A・Bさん,赤倉温泉でアツアツの足湯体験」
 B「道東サンマ漁,小型漁船こっそり大型化」
 C「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突,1人死亡」
 D「国の史跡傷だらけ,ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」
 E「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」

 知財高裁判決は、これらについて、詳細に判断を示し、結論的に全て、創作物性を否定することで、著作物性を否定している。
@については、
【対句的な表現(注 マナーとマナー)は一般に用いられる表現】
Aについては、
 【「アツアツ」との表現も普通に用いられる極めて凡俗な表現】
Bについては、
 【「こっそり」との表現も普通に用いられる表現】
Cについては、
 【「→」と矢印の記号が用いられているが,インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては,上記YOL見出しの以前から,記事見出しの中に「=」,「−」,「…」などの各種記号を用いてする表現は,広く多用されている】
Dについては、
 【「傷だらけ」との表現も,それ自体が一般的に用いられる表現である上,上記記事が伝えようとする事実からそれほどの困難もなく想起し得るものであって,格別の創作性を見いだすことはできない。】
Eについては、
 【「×」という記号が用いられているが,一般に「ダメ」であることを表すのに「×」の記号を用いることは極めてありふれている上,インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては,種々の記号を用いてする表現は,広く多用されているものと認められる】
 他に、知財高裁判決は、読売新聞社が、「例えば」として挙げた
 「Cさん母娘ら4人を拉致被害者と認定」
 「ノーベル物理学賞にD・東大名誉教授ら3人」
 「拉致の5人,15日帰国へ」
 「ノーベル化学賞にE氏…43歳会社員」
 「北朝鮮,米に核開発認める」
 「NY円,4か月ぶりに1ドル125円台」
 「東海村の原子炉が地震で自動停止」
 「内閣支持率横ばい…読売調査」
 「拉致解明専門チーム設置へ」
 「雇用保険料率1.6%に引き上げへ」
 「東証大幅続落,終値8690円77銭」
 「イラク,安保理決議を受諾」
 「査察先遣隊バグダッド入り」
 「Fさまご逝去,47歳」
 「G氏きょうにも辞任表明」
 「来年度予算,83兆円前後で調整」
 「H・前幹事長,代表選に出馬を表明」
について、
 【事実関係を客観的にありふれた表現で構成したものであり,見出しに対応するYOL記事本文との関係をも考慮しつつ検討するとしても,これらのYOL見出しの表現に創作性があるとは到底いえない。】
として、この365個全てについて著作物性を否定している。365個の全ての内容について、詳細に検討できなかったが、知財高裁の判断をみると、上記読売新聞社が特に掲げた6つの域を超える「見出し」ではなかったことが分かる。

 他の「見出し」については、各々の「見出し」についての「特定」がない、「創作性を有することを基礎付ける事実」がないとして、著作物性を認めなかった。著作物性判断が、個々の「見出し」について問題となり、しかも相手方が否認している状況では、各々についての表現内容の「特定」、それら各々に対応した「創作性を有することを基礎付ける事実」を主張・立証することを要するとした極めて常識的な判断をしているとはいえる。

2-3 「見出し」の著作物性について
 「見出し」の著作物性判断について、まとめると、
 @ 「見出し」が、著作物性を認められるのは、一般的には困難ではあるが、個別具体的判断の結果、認められることもあり得る。
 A 「見出し」の各々について、「特定」と「創作性を有することを基礎付ける事実」の主張・立証が必要である。
 B 上記特に掲げられた6つの「見出し」程度でも創作性は認められないと判断されるので、
 結果的に、新聞「見出し」について、著作物性が認められるのは、極めて例外的なことである。 といえる。

3 不正競争防止法違反

3-1 「商品の形態の模倣」(不正競争防止法2条1項3号)
 「商品の形態」については、平成17年改正不正競争防止法により、新たに定義規定が設けられ、
 「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる  商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質  感をいう。」
と規定された(不正競争防止法2条4項)。
 知財高裁判決は、従来の判例により受け入れられた解釈を規定により明確化したものとして、改正前であっても、この解釈が妥当とした。

3-2 具体的判断

 知財高裁判決は、上記解釈を示した上で、
【仮に,YOL見出しを模倣したとしても,不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」を模倣したことには該当しない】
として結論のみを述べる。
 読売新聞社は、「無体物」でも「商品の形態」となる旨主張しており、「商品」の定義を述べた判例は、他に、
【売買の目的物たる財貨】(東京高等裁判所(控訴審)平成11年6月24日判決平成11年(ネ)第1153号模倣品販売差止等請求控訴事件)
と述べた判例、不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に関するものとして、
【経済的な価値が社会的に承認され、独立して取引の対象となる無体物である書体は、「商品」に当たる】(東京高等裁判所(控訴審)平成5年12月24日決定、判例時報1505号136頁)(読売新聞社は、この定義に沿った主張をしている。)
とした判例もあるが、上記定義規定から、「見出し」は、実際の形状が確認できるものではなく結果的に「無体物」の「商品の形態」は、否定されることになる。

4 不法行為(709条)に基づく損害賠償請求
4-1 地裁判決の判断
 地裁判決は、次のように判断して、不法行為性を認めなかった。
【YOL見出しは,原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり,前記のとおり,著作権法等によって,原告に排他的な権利が認められない以上,第三者がこれらを利用することは,本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り,インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして,本件全証拠によるも,被告の行為が,このような不正な利益を図ったり,損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって,被告の行為は,不法行為を構成しない。原告のこの点についての主張は理由がない。】
 不法行為の成立には、不正利益ないし損害加功目的の利用が必要という判断である。
 地裁判決によれば、著作物性が認められることが困難な「見出し」については、不法行為による救済はかなり困難(実質的に「見出し」使用は、自由という判断である。)となる(なお、地裁段階では、不正競争防止法の主張はされていない。)。

4-2 知財高裁判決の判断
 しかしながら、知財高裁判決は、次のように判断して、本件において不法行為性を認めた。
 【不法行為(民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利  益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。

  インターネットにおいては,大量の情報が高速度で伝達され,これにアクセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし,価値のある情報は,何らの労力を要することなく当然のようにインターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであって,情報を収集・処理し,これをインターネット上に開示する者がいるからこそ,インターネット上に大量の情報が存在し得るのである。そして,ニュース報道における情報は,控訴人ら報道機関による多大の労力,費用をかけた取材,原稿作成,編集,見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ,インターネット上の有用な情報となり得るものである。

 そこで,検討するに,前認定の事実,とりわけ,本件YOL見出しは,控訴人の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。一方,前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。

 そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。】
   知財高裁判決の要点は、まず、法的保護利益については、
 @ 著作権法等で排他的権利が認められない場合、不法行為が認められるためには、不正な利益目的・損害加功目的が必ずしも必須なわけではない(地裁判決とは異なり、更に広く法的保護を認める判断である。)。
 A 多大の労力,費用をかけた
 B 相応の苦労・工夫により作成されたもの
 C YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情がある
ものであれば、法的保護に値する。一方、侵害行為については、
 @ 無断
 A 営利の目的
 B 反復継続
 C 情報の鮮度が高い時期
 D 特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピー
 E 業務と競合する
ことを挙げ、不法行為成立の基準を示した。


4-3 損害論
 知財高裁判決は、損害論について、
【控訴人には実損害が生じているわけではないともいえなくもない。しかしながら,そうであるからといって,他人の形成した情報について,契約締結をして約定の使用料を支払ってこれを営業に使用する者があるのを後目に,契約締結をしないでそれゆえ無償でこれを自己の営業に使用する者を,当該他人に実損害が生じていないものとして,何らの費用負担なくして容認することは,侵害行為を助長する結果になり,社会的な相当性を欠くといわざるを得ない。そうすると,結局のところ,被控訴人が行った侵害行為による控訴人の損害及び損害額については,控訴人と被控訴人が契約締結したならば合意したであろう適正な使用料に相当する金額を控訴人の逸失利益として認定するのが相当である。】
と述べ、更に、
【使用料について適正な市場相場が十分に形成されていない状況の現状では,損害の正確な額を立証することは極めて困難であるといわざるを得ない。】
として、「民訴法248条の趣旨」を使い、1か月あたり1万円の損害を認定した。
 額としてこれが妥当か否かについては、安すぎる感はするが、認めたこと自体に意義があるものである。

5 不法行為に基づく差止請求

 これについては、知財高裁判決は否定している。
 【一般に不法行為に対する被害者の救済としては,損害賠償請求が予定され,差止請求は想定されていない。本件において,差止請求を認めるべき事情があるかを検討しても,前認定の本件をめぐる事情に照らせば,被控訴人の将来にわたる行為を差し止めなければ,損害賠償では回復し得ないような深刻な事態を招来するものとは認められず,本件全証拠によっても,これを肯認すべき事情を見いだすことはできない。
 よって,控訴人の不法行為に基づく差止請求は理由がないというほかない。】
 不法行為に基づく場合は差止が困難という判示自体は、通常の見解ではあるが、肯定される余地を残した判示であるという意味においては、意義があろう。

6 知財高裁判決の参考となるべき点

 創作性を具備することが一般的に難しく、また、「商品の形態」を議論できない新聞の「見出し」は、ある意味、著作権法、不正競争防止法の範疇を超える、若しくは想定されていなかったものとはいえる。また、インターネット上における利用を、どの程度まで「自由」に認めるかという議論の問題でもある。
 本件は、「見出し」について、排他的権利である著作権法、不正競争防止法による請求を認めなかったにもかかわらず、不法行為による(大分減額はされたが)請求を認めたことで、個別的救済はあり得ることを示したことに高い意義を有する判例である。
 インターネットにおける利用という観点からすれば、
  「見出し」に、著作物性が認められることは極めて困難である。
  不法行為が認められる余地があったとしても、その損害額は極めて少なく、差止も困難である。
 という結論に達し、インターネットの「自由」に重点を置いた判例といえる。
 
知財高裁判決
H17.10. 6 知財高裁 平成17(ネ)10049 著作権侵害差止等請求控訴事件

地裁判決
H16. 3.24 東京地裁 平成14(ワ)28035 著作権侵害差止等請求事件
以 上


(H18.1作成 :弁護士 岩原 義則) 


→【1】論説 :メタタグにおける他社商標の使用と商標権侵害
→【3】論説:小売業の商標のサービスマークとしての保護について
→【4】記事のコーナー :職務発明規定の見直しについて(平成16年 特許法等の一部改正)
→【5】記事のコーナー :インターネット出願について
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