発行日 :平成18年 1月
発行NO:No16
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【1】論説〜メタタグにおける他社商標の使用と商標権侵害〜
1 問題点の所在

Web上での商標の使用が侵害行為に該当するかについては、商標法が従来では予定していなかった問題を含むため、インターネットにホームページを開設している企業の担当者にとって悩ましい問題となっています。
特に、ホームページを検索する際にキーワードとなるメタタグに、他社の商品を検索した顧客に見てもらうため、他社の商標を使用することについては、これまで先例もなく、商標権侵害となるのかどうか見解が相違しています。

2 メタタグとは

  メタタグ(Metatags)とは、ホームページの文章などをどのように画面表示させるかを記述するHTML言語(Hypertext mark-up language)で使用されるコードの一種であり、メタタグはそのホームページの内容を示すキーワードを記述しておく部分として使用され るため、キーワードにより検索結果を表示する検索エンジンでは、これに対応するホームページが表示されるようになっています。した がって、検索の際に使用される頻度の高い有名メーカーの商標を自社のホームページのメタタグに書き込んでおくと、検索エンジンを介 して他社の商品に関心のある顧客を同種の商品を販売する自社のホームページに誘引することができて、営業的には好都合ということに なります。しかし、最終的にホームページを見れば混同を生じないとしても、当初は混同を生じさせて、顧客に関心を持たせることにな るため、米国ではメタタグのキーワードとしての商標の使用でも商標権侵害を構成するとした裁判例があり(青木博通「商標の使用とネ ット上の商標権侵害」パテント54巻21頁)、商標の出所表示機能の保護を重視する立場からは、他人の登録商標と同一又は類似のメタタグ が出所表示機能を果たしており、指定商品(役務)と同一又は類似のものについて使用されていれば、商標権侵害に当たると言う見解が 提唱されています(川崎信夫「新しい時代における知的財産保護のための不正競争防止法のあり方に関する調査研究」知財研紀要2002・51頁)。

  この問題は、通常、ホームページを見る際には見ることがない、メタタグ上での商標の使用が商標法で侵害を構成する商標の使用といえるかどうかという点、すなわち、コンピュータの画面上の表示だけでなく、ブラウザで画面表示する前提となるHTML言語による記述部分にまで商標権の効力が及ぶかという点を検討して判断すべき問題であり、以下、このような視点から論じて見たいと思います。

3 商標の使用とは

  商標権の侵害となるためには、その商標の使用が商標法2条3項各号において具体的に列挙している「商標の使用」の概念に該当することが必要となります。例えば、ホームページにおける商品商標の表示が問題となるとすると、メタタグのキーワードとしての商標の使用が平成14年に改正された同項8号の「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」に該当すれば、商標権侵害になります。メタタグは、ブラウザを起動させてホームページを見るだけでは、どのようなキーワードが記述されているか認識することはできませんので、これまでの商標の使用の概念に沿い、メタタグに組み込まれた商標が視覚的に商標の出所表示機能を果たしていない場合には、商標として の使用から排除されることが多いと解説されています(特許庁総務部総務課「平成14年改正産業財産権法の解説」54頁)。

  しかし、本件の事例のように他社の商品を検索した顧客に見てもらうため、自社ホームページのメタタグに他社の商標を記述するような場合には、商品に関する広告を内容とする情報に関して記述され、この記述が電磁的に提供されていることには変わりはなく、通常の方法で視認できないとしても、ブラウザの「ソース」表示機能を選択すれば、視認することができます。そして、検索エンジンによる混同という限度であっても、商標の出所表示機能が害されていることに変わりはなく、実質的にも侵害とすることが商標法の趣旨に沿うと考えられるので、商標法2条3項8号の使用の概念に該当すると解すべきです。また、学説においても、「商標の視認性を欠くことを理由に商標の侵害を否定できない」とするものがあります(土肥一史「ネットワーク社会と商標」ジュリスト1227号30頁)。したがって、本件のように、自社の商品の販売を目的として他社の商標をメタタグに加えてホームページで広告することは、商標権の侵害になると思われます。

4 検索エンジンへのバナー広告

  メタタグにおける他社商標の使用と類似の問題として、ホームページ上の小さな見出し広告であるバナー広告が検索エンジンの機能に より有名な商標の検索結果の画面になされる場合があります。この場合は、バナー広告自体に他社の商標が表示されている訳ではありま せんし、検索エンジンの検索結果とバナー広告を結合させるのは、検索エンジン提供者のシステムであるので、広告主が商標法2条3項 8号に該当して、「情報に標章を付して電磁的方法により提供」しているとは言えないと解されます。したがって、メタタグでの他社商 標の使用と異なり、このような場合にまで商標権侵害を構成すると解することは困難であると思われます。

  検索エンジン提供者の責任については、バナー広告より直接的なキーワード自体の販売について、「キーワードが普通名詞である限り問 題はないが、著名商標と同一のキーワードをその保有者と明らかに関係のない者に販売する行為は、その後の購入者の行為によって商標 権侵害等が惹起される場合に、幇助・教唆の責任とは無縁であるとはいい難いように思われる。」(前掲「ネットワーク社会と商標」3 0頁)との指摘がありますが、検索結果の画面にバナー広告であることがわかる態様で他社のバナー広告を表示させることは、広告主自 体が商標権侵害とならない以上、商標権侵害の教唆や幇助になることはないと思われます。もっとも、問題となる表示がバナー広告と見 られないような態様であったり、バナー広告の表示中にさらに混同を惹起するような表示があれば、商標権侵害の教唆や幇助となったり、 不正競争防止法の問題となったりする可能性はあると思われます。


5 メタタグ記述上の注意事項

  以上に述べたとおり、自社のホームページのメタタグに他社の商標を記述しておくことは、商標の視認性を厳格に解する従来の見解からは、商標権侵害を構成しないと解される余地があったとしても、商標法の解釈上、侵害を構成すると判断される虞が十分にあるので、企業のWeb担当者やホームページ作成業者は、他社から商標権侵害の警告がなされるリスクをがあることを認識しておく必要があると思われます。



(H18.1作成: 弁護士・弁理士 溝上 哲也)


→【2】論説:新聞の「見出し」と著作権法、不正競争防止法、不正行為性について
→【3】論説:小売業の商標のサービスマークとしての保護について
→【4】記事のコーナー :職務発明規定の見直しについて(平成16年 特許法等の一部改正)
→【5】記事のコーナー :インターネット出願について
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