発行日 :平成18年 1月
発行NO:No16
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【4】記事のコーナー〜職務発明規定の見直しについて
(平成16年 特許法等の一部改正)〜

1.改正の経緯

(1) 従来の職務発明制度と職務発明に係る「相当の対価」を請求する訴訟の状況
 改正前の特許法は、特許を受ける権利が原始的に従業者等に帰属することを前提に、職務発明について特許を受ける権利及び特許権の帰属及びその利用に関し、使用者等と従業者等の夫々の利益を保護すると共に、両者間の利害を調整していた(特許法第35条)。
 ところで、従来、ほとんどの使用者等は、従業者等との間で個別の契約を行わず、勤務規則等の形式で定型的に定めた職務発明規定等により、従業者等から安定的に特許を受ける権利等を承継してきたが、これらの職務発明規定等は、従業者等との間で協議することなく、一方的に使用者等が定めている場合も少なくなかった。これに対して、従業者等は使用者等に不満等を表明したり、「相当の対価」を請求する訴訟を提起することはほとんどなかった。
 しかし、近年の知的財産に対する国民的関心の高まりを背景に、また、我が国における雇用関係の変質により研究者の流動化が進んだことを背景に、従業者等から特許法第35条第3,4項に基づく「相当の対価」の支払を請求する訴訟が相次いで提起されるようになってきた。

(2) 従来の職務発明制度の問題点
@ 使用者等及び従業者等の自主的な対価設定の困難
 職務発明の承継や対価の設定は、私的自治の原則により規律されることが妥当であり、改正前の特許法第35条もこれを基本構造とし、その「相当の対価」の額の算定方法を定めている(改正前の第4項)。  しかし、訴訟が提起されれば、使用者等と従業者等との間の取り決めがあったとしても、その取り決めは排除され、別個に改正前の第4項に基づいて「相当の対価」が算定されるとすることは、個別の事情を反映した問題の解決を困難とし、結果的に職務発明の活性化を阻害する可能性があった。
A 予測可能性が低いことによる使用者等の研究開発投資の意欲の阻害
 改正前の職務発明制度では、従業者等から訴訟が提起された場合は、最終的に訴訟が確定するまで、従業者等に対していかなる対価を支払えば免責されるのかが不確定の状況におかれるので、使用者等にとっては最終的な研究開発投資額の予測可能性が低下し、研究開発投資の意欲が減退していた。
B 従業者等の発明意欲の減退のおそれ
 従来の職務発明制度の下では、使用者等が一方的に定めたいわゆる職務発明規定等において対価についての定めを設け、その定めに基づいて決定される対価の支払を行っているのが通常で、職務発明制度が目的としている従業者等の発明意欲の維持・確保が実現されていないおそれがあった。
C 訴訟において算定される場合の考慮要素
 近年、使用者等の行う研究開発とそれに基づく事業化はかなり多様化している。また、従業者等の発明意欲は対価の支払いのみによって維持されるものではなく、例えば従業者等のうち使用者等の利益に貢献した発明者に対しては、対価の支払以外の方法により厚く処遇しているという場合があるなど、我が国における雇用関係その他の従業者等と使用者等の関係も、かなり多様化している。従って、これらの多様な関係や事情を考慮せずに「相当の対価」を決定することは、従業者等と使用者等との間の衡平を阻害し、使用者等の研究開発投資意欲を減退させ、結果として職務発明の活性化を阻害するおそれがあった。

(3) 平成16年改正特許法の施行
 従来の職務発明制度を前提とする上記の訴訟等の状況に配慮し、職務発明制度の上記の問題点を解消するため、職務発明制度の見直しを含む「特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律案」が平成16年5月28日に国会で成立し、同年6月4日に法律第79号として公布され、平成17年4月1日から新職務発明制度を規定した特許法が施行されています。

2.改正の概要

平成17年4月1日から施行された新職務発明制度の概要は、次のとおりですが、その詳細は、特許庁ホームページに掲載されている「職務発明制度に関するQ&A」及び「職務発明制度における手続事例集」に掲載されています。

(1) 「相当の対価」の請求権について
 使用者等に対する予約承継の認容と従業者等の「相当の対価」の請求権の保障という基本構造は、適切な制度設計であると判断できるので、現行の基本構造は変更しないこととした。
 すなわち、契約、勤務規則などによって職務発明に係る権利を使用者に承継等させたときは、従業者等は「相当の対価」の支払を受ける権利を有するものとしている。

(2) 契約、勤務規則その他の定めにおいて「相当の対価」について定める場合の要件
 「相当の対価」の決定方法については、その方途を拡大することとした。
 すなわち、契約、勤務規則その他の定めにおいて、従業者等が支払を受けることができる対価について定めた場合は、原則、その定めたところに基づいて決定される対価を「相当の対価」として認め、使用者等はその対価を支払うことで免責されるとしている。
 但し、契約、勤務規則その他の定めにおいて対価について定める場合において、それが「相当の対価」と認められるためには、その対価が決定されて支払われるまでの全過程を総合的に評価して不合理と認められるものであってはならない。そして、不合理と認められる場合は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額等を考慮して定められる一義的な額を「相当の対価」とし、従業者等はその「相当の対価」の額の支払を受ける権利を有するとしている。

(3) 契約、勤務規則その他の定めにおいて、「相当の対価」についての定めがない場合又は定めたところにより対価を支払うことが不都合と認められる場合における「相当の対価」の額の算定
 契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の対価について定めをしない場合において、考慮要素を挙げて相当の対価の額の算定方法を規定するという基本構造は維持している。さらに、契約、勤務規則その他の定めにおいて対価について定めた場合であっても、その定めたところにより支払うことが改正後の新第4項により不合理と認められた場合には、同様の算定方法により「相当の対価」の額を算定することとした。


以上

(H18.1作成 : 特許商標部 宮崎  勲)


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