発行日 :平成20年 7月
発行NO:No21
発行    :溝上法律特許事務所
            弁護士・弁理士 溝上哲也
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   【5】記事のコーナー〜技術調査について〜

1:技術調査とは
  過去に出願され、公開された特許(発明)、実用新案(考案)、意匠(意匠)を各種検索により見付けることです。以下、どのような場合に調査すべきか等について、特許(発明)を中心として説明しますが、実用新案法や意匠法に準用していない制度もありますので、詳しくはお問い合わせ下さい。なお、調査の対象となる法域については、括弧内に(特・実・意)とそれぞれ記しています。

2:何のために技術調査を行うか
(A) 出願は考えていないが、着想アイデアを商品化したときに、他人の特許権に抵触しないかどうかを判断するために…。(特・実・意)
☆出願することは考えてないとしても、着想アイデアを商品化したような場合、既に権利化された他人の特許権を侵害してしまうことがあります。ありがちなケースとしては『市場で(製品を)見たことがないから大丈夫』ということで、市場における先行商品とすべく調査を行わずに販売を開始し(実は他人による「出願」はされていて)、他人の出願が権利化されたとき、市場では先行商品でありながら、その他人の出願の後の販売であったため、侵害警告を受ける場合があります。
  こうなると、既に製造・販売された商品の回収や設備の撤収に要するコスト、また、訴訟となれば裁判費用等、各種の時間と費用が(通常の事業に対して)余分に生じることは間違いなく、市場の信用も失墜しかねません。

  上記を回避するために、出願は考えていなくても、何かアイデアが浮かんだときに、とりあえず技術調査を行うことをお勧めします。
  そうすれば、例えば、関連する先行出願が発見されれば、その時点で「商品化を停止する」、「その出願が拒絶査定や未審査請求で取下擬制されるまで延期する」、「その出願を参考にして(抵触しないように)さらに改良する」など、着想アイデアの今後に向けた展開の選択肢が広がると共に、上記のリスクが軽減されます。

(B) 着想アイデアが、出願して特許権が付与される特許(発明)に値するか否かを判断するために…。(特・実・意)
☆ 出願を考えている場合、特許印紙代が必要となります。また、特許事務所等で書類作成を依頼すれば印紙代+書類作成手数料が必要となります。その後、特許であれば権利化を行ううえで必ず必要となる「審査」の請求費用(審査請求印紙代)が必要となります(意匠は出願すれば必ず審査されますし、実用新案は無審査で権利化されます)。結局、特許の場合、出願と審査請求までで特許印紙代だけでも20万円近くの費用が必要となります。ありがちなケースとしては『着想アイデアに惚れ込んで(権利化されるか否かの)客観視ができていない』ということで、着想時点でとにかく早く出願及び審査請求に踏み切ってしまう場合があります。

  他より早く出願することは権利化を図るうえで優先すべきことですが、調査を行わずに出願、審査請求をすると、20万円近くのコストを捨てる結果となる可能性があります。 上記を回避するならば、出願を考えている着想アイデアがまとまった時点で、技術調査を行うことをお勧めします。
  そうすれば、例えば、関連する先行出願が発見されれば、その時点で「出願しない」、「その出願に関する課題等を考察してさらに改良する」など、出願と審査請求を行うにしても、それら手続に関するコストが無駄なるような事態を未然に防ぐことができます。

(C) 特定企業の出願動向、特定の技術動向を探るため、また、「出願中」と付された商品の出願内容を探るために…。(特・実・意)
☆(A)(B)に付随しますが、一旦思いついたアイデアを商品化したり、出願すると言う場合、先行する出願を知るために調査をすることが動機としては最も有力ですが、それ以外にも、例えばライバル企業の動向を探るとか、その技術分野の動向を探るなどの資料として活用するに際しても調査は必要とされます。ありがちなケースとしては、『闇雲に(費用を投じて)開発して、実際は陳腐化した技術であったり、既に出願書類中に開発の最終帰着技術について問題点が指摘されていたりして、開発そのものが無駄に終わる』といった場合が考えられます。つまり、何ら業界、技術の動向を知らずに、結果的に無駄な時間と開発コストをかけてしまったという場合です。また、これとは逆の他のケースとしては『パッケージに「特許出願申請中」などと付されているのを目にして、開発を断念したり躊躇する』といった場合があります。つまり、「特許出願中」と付した側は、「権利化されるかも知れません」という表記だけで他人の同一又は類似商品の参入を抑制する効果を狙っている場合が多分にあるのですが、「特許出願中」と付されたパッケージを見た側が、どういった技術について出願しているのか判らないのに開発を躊躇してしまう又は断念してしまう、といったケースです。

  上記を回避するために、その業界を牽引するような企業、ライバル企業等の出願動向を調査(出願人検索をすれば)したり、特定の技術分野の出願動向を調査(真の意味での技術調査)することを、また、「特許出願中」の内容を調査することをお勧めします。
  そうすれば、出願人検索により目的とする企業が現在どういった技術に力を注いでいるのかが大雑把ながら把握できますし、また、技術調査により目的とする技術に関しての過去から現在に至る進歩経緯や問題点とその問題点の克服技術が把握できます。また、これら出願人と技術を検索の切り口として調査をすれば、パッケージに記載の「特許出願中」の技術内容と、出願人とを特定することができ、開発が無駄になったり躊躇したりといった事態を回避できます。

(D) 出願するに際して、明細書の記載要件とされる先行技術文献を探すために…。(特) ☆ 出願することを決定した場合、上記(A)〜(C)で調査を全く行っていなくても、出願書類の作成においては、現状、調査が必須とされます。現行特許法においては、明細書記載要件として、特許法第36条第4項第2号に(要約)「その発明に関連する文献公知発明のうち特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明を記載する」旨規定されており、これに違反すると拒絶理由(特許法第48の7)が発せられ、この拒絶理由が解消されなければ拒絶査定となります(特許法第49条第5項)。つまり、先行文献を明細書に記載していなければ、審査の段階で実体の審査とは別の余計な拒絶理由通知が発生し(拒絶理由を放置又は解消されなければ拒絶査定となる)、この拒絶理由通知に対する応答期間の分だけ、権利化が遅延し、また、書類を作成することを特許事務所等に依頼すればその旨の別途手数料が発生します。さらに、(出願前に調査をしないまま書類を作成し)出願後に前記拒絶理由通知を受けて、そこで改めて調査をしたところ、全く同一又は酷似した技術の文献が検索で見つかった場合、検索で見つかった文献に記載の技術と例えば重複しないよう、出願書類(明細書)全体を手直しすることもできません。 上記を回避するために、アイデアを着想した段階のうちに(A)〜(C)の調査を行っておくことをお勧めします。(特許事務所等に依頼して)出願書類を作成する場合には、出願費用の内訳に先行技術検索料が含まれていますので、書類作成に先立って調査を行って、書類全体の整合性や記載事項を検討することになります。
  こうすれば、余計な拒絶理由通知を受けることもなくなりますし、予め技術動向やその問題点を見据えた内容で出願書類を作成できますから、(審査官に向けた)出願書類の内容に説得力が増し、権利化しやすくなります。また、出願書類作成前に調査を行っておくことで、上記(B)で説明したとおり、その時点で「出願中止」や「再改良」などの選択肢も現れます。

(E) 自分の出願の日から1年6か月経過後に審査請求を行う際、自分の出願の日時点で未公開文献を確認するために…。(特)
☆ 特許のみが対象となりますが、権利化のために「審査請求」が必要となります。審査請求をしなければ、審査されませんから、権利化されることもありません。権利化されないということは権利行使(侵害警告等)ができません。出願自体のメリットは、権利行使はできないまでも、自分の発明した(他人の特許権を利用したり抵触しない)技術については、自分の出願の日より後の出願には権利が発生することがないという点で、他人に警告等されることなく安心して使用できるという点があります(いわゆる防衛出願)。ところで、審査請求を行うか否かの判断は、大雑把に捉えれば、権利化する必要のある技術なのか(それとも防衛出願で良いのか)、あるいは(審査されて)権利化されるような技術なのか、2つに大別されると考えます。上記(B)で説明したとおり、審査請求に要する特許印紙代は高額ですので、十分な検討を要します。

  ここで、特許・実用新案・意匠の「公開」について簡単に説明します。特許法では出願後1年6か月で自動的に出願が「公開」、すなわち「公開公報」の発行がなされます(登録公報が発行されたものは除きます)。実用新案法では何時という時期的な決まりはありませんが、概ね出願後6か月程度で自動的に「登録公報」が発行されます。意匠法では審査を経て登録査定を受けた意匠について「意匠公報」が発行されます(時期不定)。
  つまり、特許は、出願後1年6か月経過しないと自分の出願が公開されない代わり、自分の出願の日より直近1年6か月「前」の他人の出願も公開されません。このことから、自分の出願の日より「前」に調査を行っていても、どうしてもその調査を行った日より前の1年6か月の間の他人の出願は公開されていないので見ることができません(調査で見付けることができません)。
  よくあるケースとしては『出願前の調査データだけで(例えば極端ながら出願日より1日前に出願された他人の出願の存在を知らずに)「審査請求」を行って、自分の出願日より前の他人の出願により拒絶となった」という場合があります。
  こうした事態を回避するために、審査請求を行う時期を自分の出願日より1年6か月後までまって、このタイミングで調査をすることをお勧めします。もっとも審査請求のコストを度外視して早期権利化を目指すならば、審査請求は例えば出願と同時に行うといったように早い方が良いです。

  出願後の1年6か月経過後に調査をすれば、自分の出願と共に、自分の出願の日より直近の1年6か月前の他人の出願も検索で見付けることができますから、もし同一又は類似する出願が見つかれば「審査請求しない」という選択肢も現れ、審査請求に要するコストが無駄にしなくて済むなどのメリットがあります。また、審査請求をするとしても、このタイミングで見つかった先行文献による拒絶理由を構成されないよう、予め権利範囲を狭くするという手直し(補正:条件が限られますが)を行うという選択肢も現れます。さらに、既に審査請求をしてしまっていたとしても、特許法195条第9項及び第10項に規定された条件、すなわち要約すると「出願審査の請求をした後、拒絶理由通知又は査定の謄本の送達のあるまでの間に、その特許出願が放棄され、又は取り下げられたときは、政令で定める額を返還する(ただし放棄、取り下げ後6か月経過後は返還の請求ができません)」という選択肢も現れます。

(F) (審査請求済で拒絶理由通知発送前の)他人の出願に対して、権利化を阻止すべく刊行物等提出書を提出するために…。(特)
☆ 他人にその技術に関する特許権が発生してしまうと、事業がやりにくくなるといった事態があります。特許出願は、審査請求をすると審査官が審査を行います。そして、特許法には、審査に入った他人の出願に対して、審査官(特許庁)にいわゆる情報提供と呼ばれる「刊行物等提出書」(特許法施行規則第13条の2)の提出を行って、審査官の(拒絶査定に導くような)審査の手助けを行うことができます。もっともそうした情報提供の内容を実際に拒絶理由を構成する際に採用するか否かは審査官の裁量によりますが、少なくとも審査官に対して、この情報を用いて、こうした拒絶理由が構成できる(ゆえに拒絶査定をすべきである)というアピールをすることができます。他人の特許出願の権利化を阻止する情報提供の目的と、制度上の効果が異なりますが、情報提供とは別に他人の権利の発生後に当該権利を無効とするべく審判官に判断させる無効審判という制度もありますが、無効審判は特許印紙代を要するだけでなく、それ相応の説得力のある書類や理由が要求され、請求人名が公表されますので、時間とコストだけでなく多大な労力を要します。要するに、刊行物提出書の提出は、無効審判の請求に較べて、提出人は誰かは判断されない(提出者を匿名としても受理はされる)ばかりか、特許印紙代、時間、コスト、労力の負担が軽いので、他人の特許出願の権利化を早い段階のうち阻止する有効な手だてと考えます。
  この刊行物提出書の内容となる(審査官へ)提供する情報の収集手段として、調査をすることをお勧めします。

  この時点での調査を行っておけば、例えば、その他人の特許がゆくゆくは権利化される可能性が高いのか、あるいは拒絶理由を構成できるのか、についてある程度の判断ができます。そして、調査により拒絶理由を構成する有力な文献が見つからす、権利化される可能性が高いと見れば、他人の権利発生以前に自分の事業の方向転換を図るという選択肢も現れます。また、調査により拒絶理由を構成する文献を発見し、審査で反映され、他人の特許出願が拒絶査定となれば、(この査定が覆る場合もありますが)とりあえずは権利化を阻止するという目的が達成できます。

(G) 他人の特許権について無効理由が存在するかどうかを確認するために…。(特・実・意)
☆ ある日突然に侵害警告を受けた場合、確実に証明できる自分の事業の開始時期が当該権利の出願日より前であれば、それをもって当該権利の無効を主張するなどの対抗策を講じることができます。しかし、当該権利の出願日より明らかに後であるような場合、自分の事業の開始時期の証明をもって対抗策を講じることができません。このような場合、警告後、どのような交渉に発展するかによりますが、交渉におよぶ前に、当該権利について無効理由の存在の有無を確認するため、調査をすることをお勧めします。

  例えば調査により一定の無効理由を構成する文献が見つかった場合は、当該権利の権利者に対してそうした無効理由に基づいて無効審判を請求して当該権利を無効にする旨回答するという対抗策を講じることができます。
  また、警告を受けなくても、気になる権利について予め無効理由の存在を調べておけば、無効理由が存在する場合は当該権利の存在で自分の事業をいたずらに縮小したり撤収するなどする必要がありませんし、無効理由が存在しない場合は警告を受ける前に早々にそうした事業から撤収することも可能となります。
 以上説明した場面以外でも、調査の必要性はあると考えます。
 (特許)出願の際には記載要件として調査して知り得た先行文献の記載が義務づけられていますが、その他「絶対に必要」ではないにせよ、予め又は適切なタイミングで調査を行っておくことで、先々の展開の選択肢が広がることは間違いないと考えますので、お気軽に弊所までご相談下さい。


以上

(H20.8作成 : 特許商標部 竹内 幹晴)


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